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下町ロケット

下町ロケット (小学館文庫)

本書「下町ロケット」は"半沢直樹シリーズ"と同じくTVドラマ化された有名なベストセラーであり、いずれも池井戸潤氏の代表作に挙げられる作品です。

本作品の主人公は、大田区の下町にある佃製作所の社長である佃航平

航平は元々、宇宙科学開発機構の研究員でしたが、そこで挫折を味わい亡くなった父親の家業を継ぐことになりますが、冒頭から大口の取引先である京浜マシナリーから取引終了を告げられ、銀行からの追加融資を断られ資金繰りに苦しむことになります。

さらにライバルのナカシマ工業からは特許侵害で訴えられ、いきなりの倒産危機に直面することになります。

そこから主人公を含めた社員たちの悪戦苦闘、獅子奮迅の物語が怒涛のように繰り広げられることになりますが、これから読む人のために内容はここまでにしておきます。


日本全国のあらゆる場所に点在する零細企業や中小企業が製造業の屋台骨を支えていると言われますが、その要因をひと言で表せば、そこで働く職人たちの高い技術力であるといえます。

一方で時折ニュースなどで報道されるように後継者不足、脆弱な財務状況など多くの課題を抱えているのも事実です。

本書に登場する佃製作所は、世界最先端の優れた技術を持ちながらも経営の危機に瀕してしまう、ある意味で典型的な中小企業のモデルケースであるといえます。


就職活動中の学生や、おそらく学生の両親も中小企業よりは安定していて待遇も良く、誰もが知っている大企業への就職を希望するのではないでしょうか。

私自身は大企業へ勤めた経験がありませんが、中小企業にも良い点があります。

それは自分の活躍が会社の成長(業績)に直結する、そしてそのためのチャンス(抜擢)が得られやすいという点です。

さらにエンジニアと営業の経験を同時に積めるなど、任せられる範囲や責任は広く重いものの、実務を通じて成長しやすい環境にあるといえます。

また中国を筆頭とした経済的な急成長を遂げる国々との競争も激化している現状では、歴史ある大企業といえども"安定"という言葉が必ずしも当てはまらない時代になっています。


話が少し脇へ逸れましたが、本作品はエンターテイメント性、そして中毒性が高い抜群に面白い作品であることはもちろんですが、中小企業で働く人達、そしてこれから働こうと考えている人たちを勇気づけてくれる作品でもあります。

抑揚のある文学作品とは違い、常に高いテンションで読者を引き込み続ける小説ですが、その根底にはしっかりと社会の抱える問題や本質を捉えており、本書が直木賞を受賞したのも頷けます。

続編も発表されているようですが、本書だけでも充分に満足できる作品になっています。