スウェーデンはなぜ強いのか
スウェーデンの政策に詳しい経済学者の北岡孝義氏が、同国の国家と企業戦略を解説・分析した1冊です。
著者は冒頭で次にように述べています。
われわれ日本人にとって、スウェーデンが英国やフランスのように身近な国でないのは、たんに地理的に遠い北欧の国だからではないと思う。スウェーデンという国がわかりづらい国だからである。多くの日本人は、いまだに「ノーベル賞と福祉の国スウェーデン」という漠然としたむかしからのイメージから脱しきれていないのではないだろうか。
個人的にさらに付け加えるとすれば、バイキングの子孫が暮らす寒い気候の国といったイメージですが、いずれにしても漠然としたイメージを脱するものではありません。
ただし消費者としてのしての視点で見ると、H&M、イケアといった世界的な企業がスウェーデン発祥であり、日本人にも親近感があるのではないでしょうか。
著者は国家という視点からスウェーデンを見てゆくと、戦後に高度経済成長を経験し、少子化という問題を経験している点では日本と共通していると指摘しています。
日本と同じように経済が好調な時期には社会制度の財源も潤沢ですが、経済が安定期に入り、少子化に直面した途端に年金を含めた社会福祉制度の見直しが必要になってきます。
またスウェーデンは世界でもっとも男女平等、そして女性の社会進出といった理念や制度が整備されている国ですが、同時に離婚や自殺率の高さが問題になっていました。
そこで当時のエランデル政権は「国民の家」構想を打ち出します。
それこそ子どもの教育をはじめ、手厚い社会政策によって国家が国民の面倒を見るといったスウェーデンのイメージを生み出しました。
もちろん国民へ対する税金負担の増大も発生しますが、その理解を得るために政府は徹底的な情報公開を行い、国民からの信頼を得ることに成功します。
その結果、選挙の投票率が80~90%という日本では信じられない数字になっています。
女性の社会進出、すなわち性別を超えた個性の尊重という国民性は企業の性格にも現れており、低価格の量産品を大量に供給する戦略ではなく、個性的で多様性を尊重した商品のラインナップを展開する企業が多く、単なる利益追求の集団としてだけではなく、CSR(社会的責任)にも力を入れているのが特徴です。
著者はこうしたスウェーデンの歴代の政策を解説するとともに、今後の課題にも言及していますが、何よりも日本の経済学者としてスウェーデン式モデルをどのように日本へフィードバックするかについても触れています。
本書の最後にある言葉は日本の政治家や国民にとって耳の痛い言葉かも知れません。
制度、政治への信頼という無形の社会資本こそがスウェーデンの底にある強さであり、今日の日本がスウェーデンから学ぶべきことであろう。