レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

日御子(上)


帚木蓬生氏による古代日本歴史小説です。

本書の主人公は、九州に割拠していた国々の"あずみ一族"の当主たちです。

はるか古代に大陸より日本に移住してきた"あずみ一族"は、日本の各地に散らばり代々使譯(しえき)、つまり大陸(中国)との通訳を生業としてきたという設定です。

使譯が普段活躍するのは大陸との交易ですが、何と言ってもその晴れ舞台は中国王朝(皇帝)への朝貢の時であり、漢委奴国王印で有名な後漢を興した光武帝への朝貢に始まり、魏志倭人伝に至るまでの約200年間が物語の舞台になっています。

すでに中国には広大な国土を有した統一王朝が勃興して久しく、文明、経済、芸術などあらゆる点で世界でもっとも強力な大国でした。

一方日本ではようやく稲作が定着しつつあり、小さな国が群雄割拠し始める時期でしかありませんでした。

あらゆる点で遅れをとっていた当時の日本でしたが、有力な地位を占める国にとって何よりステータスとなったのが中国王朝へ対する朝貢であり、献上物を携えてはるか遠くの洛陽にまで使者を遣わすという行為は国を挙げての一大事業であると同時に、周辺国を従える大義名分としても大きな政治的効果があったのです。

当然のように目的を達成するためには漢語を理解する使譯が必要不可欠であり、彼らの素養そのものが"倭国(日本)"の国際的印象に直結するものだったのです。

時代の流れとともに祖父から孫へ、またその子孫へと任務が受け継がれてゆく過程では平和な時期もあれば戦乱の厳しい時期もあり、それでもその時代に生きた"あずみ一族"の当主たちは自らに課せられた使命を全力で果たしてゆきます。

本書に度々登場する"あずみ一族"の3つの掟は非常にシンプルなものです。

  • 人を裏切らない
  • 人を恨まず、戦いを挑まない
  • 人良い習慣は才能を超える

世代を超えてこの掟を守り続け、たくましく時代を生き抜く"あずみ一族"の物語は、どんな時代にも変わることのない川の流れのようであり、そこに読者は壮大なロマンを感じてしまうのです。