レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

続・暴力団


前作「暴力団は2011年出版でしたが、2012年には立て続けに「続・暴力団」が出版されました。

前回は暴力団の組織構成、資金調達の仕組みなど基本的な知識を中心に紹介していましたが、今回は現在進行系、つまり最新の暴力団情報を中心に取り上げています。

本書はその中でも全国的に施行された暴力団排除条例(暴排条例)をクローズアップしています。
この条例は、一般人と暴力団の接点を断ち切る、すなわち彼らの資金調達源(シノギ)を閉ざすことで暴力団組織を弱体化させることを目的としたものです。

この条例が登場する以前から暴力団は斜陽産業であり、全国のいたる所で苦境に立たされた暴力団は変質しつつあります。

私たちから見ると暴力団の衰退は好ましい状況のように思えますが、著者(溝口敦氏)は次のように警告します。

今日の暴力団は昨日の暴力団とは違います。昨日の暴力団と思って関係すると大けがを負います。ひと言でいえば、暴力団の一部は兇暴で秘密主義のマフィアに近づいています。
損か得かで動き、近隣住民との関係など、どうでもよくなりました。

つまり追い詰められた暴力団は、生き残るためになりふり構わず犯罪に走る傾向が出てきているのです。

また暴走族に代表される不良少年たちは、警察からの監視や伝統的な習慣の厳しい暴力団に所属せず、関東連合OBに代表される"半グレ集団"を形成し、暴力団と協調、対立を繰り返しながら独自の勢力を築いています。

ちなみに会社間で取り交わされる契約書にも2012年頃から暴排条例に関する一文が入るようになり、私自身も身近に感じていますが、著者はこの条例のポイントを暴力団ではなく、地域の住民を直接的な対象としている点だと指摘しています。

つまり条例では警察が主体となって暴力団を排除するのではなく、住民たちの責務として暴力団を排除しなければならないのです。

その結果として暴力団との関係を絶とうとして恐喝され、最悪の結果として殺害されてしまう事件、逆にその関係を断ち切れず、芸能界から引退せざるを得なかったケースについても具体例を挙げて紹介しています。

極端な例ですが、昭和の名作「男はつらいよ」の主人公・寅さんを現在の法令や条例で定義すると、「テキ屋の渡世人=暴力団の構成員」という図式が成り立ち、一昔前に見られた住民と暴力団の交流は完全に暴排条例ではアウトということになります。

暴力団と一般市民との関係が変わりつつあると同時に、警察との関係も変化が見られます。

暴力団は警察の間には、お互い情報交換し合う癒着の習慣がありましたが、従来の関係性は崩れ、暴力団はメリットのなくなった警察へ情報を提供しなくなり、その結果として検挙率も低下しています。

それどころか従来の暴力団では暗黙のルールで禁じられていた、警察官をターゲットにした殺傷事件さえ起こすようになりました。

そして前作でも紹介されていた「暴力団に出会ってしまったらどうすればよいか?」については、より突っ込んだ内容で言及しています。

本書で具体的に挙げられている有名芸能人やスポーツ選手と暴力団の関係だけでなく、一般市民がふとしたきっかけで暴力団を出会う確率もゼロではありません。

そうした場合の対処法については、著者自身の経験を踏まえながら解説しています。

暴力団を漠然と""として捉えるだけでは不十分であり、現時点における暴力団の実態、そして今後彼らがどのように変質してゆく可能性があるのかという点は、一般市民にとってもいざという時のために知っておきたいところです。