文明に抗した弥生の人びと
最近、私の中ではちょっとした考古学・古代史ブームが来ています。
具体的には1万年にも渡る縄文時代、そして1000年あまりの弥生時代、それに続く古墳時代から天皇を中心とした中央集権体制が整う8世紀中盤くらいまでの時代です。
本書は2017年7月に発刊された駒沢大学文学部准教授を勤める寺前直人氏が、弥生時代の実像に言及した1冊です。
弥生時代といえば薄手で堅い弥生式土器、そして何よりも大陸から伝わった稲作、つまり農耕社会が本格的に成立した時代です。
その他にも青銅器や鉄器が用いられるようになった点も特徴です。
その結果として水田稲作が安定的な食糧供給、つまり人口増加をもたらすと同時に、「持つ者と持たざる者」という社会的・経済的格差を生み出したというのが大まかなイメージです。
しかし実際には、弥生時代の解釈を巡って専門家たち同士の間でも議論が行われている状態であり、先ほどの解釈が必ずしも正しいと立証されていないのが最先端の考古学らしいです。
その代表例を挙げると、弥生時代の母体として縄文時代があるという連続性を重視する見方と、(稲作や青銅器の伝播をはじめとした)大陸からの影響が縄文文化を一気に駆逐してしまった、つまり縄文~弥生時代間は断絶しているという見方があります。
著者の寺前直人氏は大枠では前者の説を支持する立場をとっていますが、一例の発見のみを挙げてそれを立証することは難しく、水田や土器、土偶などさまざまな角度からそれらを検証する必要があります。
具体的に着目した点は目次からも大まかに掴むことができます。
- 弥生文化を疑う
- 弥生文化像をもとめて
- 弥生文化の発見
- 二つの弥生文化像
- 農耕社会の定着
- 水田登場前史
- 縄文時代とは?
- 縄文時代の儀礼とその背景
- 土偶と石棒
- 水田をいとなむ社会のはじまり
- 農耕社会の登場
- 水田稲作とともにもたらされた道具と技術
- 狩猟採集の技の継続と発展
- 水田稲作を開始した社会の人間関係
- 財産と生命を守る施設
- 東から西へ
- 水田稲作開始期の土偶の起源
- 弥生時代の石棒
- 多様な金属器社会
- 金属社会と権力
- 青銅製武器の祭器化をめぐって
- 銅鐸と社会
- 石器をつかい続けた社会
- 文明と野生の対峙としての弥生時代
特筆すべきは、青銅器をはじめとした石器よりも便利な金属が大陸より伝播したのちも、弥生人はあえて不便な石器を使い続けた形跡があるという説です。
その結論に至るまでの考古学的な発見、および論証については本書を読んでからのお楽しみですが、いずれにせよ読者の知らなかった新しい弥生時代のイメージを与えてくれることは間違いありません。