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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

外交ドキュメント 歴史認識


テレビや新聞、インターネットからは日本と近隣国、その中でも特に中国、韓国との関係は最悪ではなくとも、あまり良い状態ではないことは伝わってきます。

特に外交の場合、今日の状況を知るだけでは充分ではなく、過去から続く両国関係の延長線上に今があると認識しなければ正確な状況を把握することは難しいでしょう。

一方でメディア場合、こうした過去の問題に触れてはいても、時間や紙面の都合から抜粋されたものになりがちであり、その情報量は充分ではありません。

はじめで触れられている通り、本書は外交史の専門家である服部龍二氏が、日本と中韓との間で行われてきた外交の過程を問題別、時間軸に新書という形でコンパクトにまとめて解説したものであり、こうした情報を得るための手段として極めて優れています。

本書の主たる目的は批評や提言ではなく、日本外交の視点から政策過程を分析することにある。諸外国の関係悪化だけでなく、修復の局面にも紙幅を割く。筆者が断を下すというよりも読者のために材料を整理して提供したい。何度でも再燃しうる歴史問題を論じるうえで、そのことは基礎的な作業になるだろう。『外交ドキュメント 歴史認識』と題したゆえんである。

中韓との外交関係は歴史問題、つまり日本との歴史認識の相違が主な焦点となる場面が多いのです。

一口に歴史問題と言っても細かい視点まで入れるとキリがありません。
中でも本書が主に取り上げているのは以下の点です。

  • 歴史教科書問題
  • 靖国神社公式参拝
  • 従軍慰安婦問題
  • 村山談話

本書では終戦後の東京裁判、そして中韓との国交正常化に至るまでの過程は概要のみにとどめ、1980年代以降の外交政策ヘ対して具体的な言及を行っています。

つまり現在から遡って30~40年間の外交過程が対象となりますが、まず本書から分かることは、日中韓いずれも一貫した外交政策を取り続けた国は存在しないという点です。

それは国内外の政治や経済状況など、複雑なパワーバランスを反映した結果であり、歴史認識に両者が歩み寄るときもあれば、片方、または両者が離れてしまう局面が何度も登場します。

分かり易い例を挙げれば、積極的な外交政策で知られる中曽根首相と改革派で親日家といわれた胡耀邦総書記との良好な関係は、日中関係がもっとも歩み寄った時期でもありましたが、保守派の反発によって胡耀邦が失脚し、江沢民が総書記に就任したのちに日中関係は急速に悪化してゆきます。

韓国ではもっと頻繁に同じ現象が起きており、日本においても歴代首相が下す靖国神社公式参拝の判断如何で中韓の態度が大きく左右します。

ある歴史問題を切り取り、舌鋒鋭い論客やジャーナリストが論じる本やコラムは読者にとって刺激的に映るでしょう。
しかし同時に読者が充分に"考える"ことをせずに、安易にそうした論調へ流れてしまうといった危険性もはらんでいます。

さらにメディアはこうした意見を保守反日、または右翼左翼といったレッテルに二分したがる傾向にあり、議論の視点を狭めてしまうという点で好ましくありません。

読者への判断材料を提供するために書かれた本書ですが、終章でわずかに著者の外交へ対する提言が垣間見れます。

外交とは、関係各国の利害を調整する行為である。相手国がある以上、外交に完全な勝利を求めるのは難しいし、危険でもある。一国が完勝しようとすれば、相手国に鬱積した感情を残すことになり、長期的には和解を遠ざけかねない。

誰が首相が就任しても、どんな政党が政権を運営しても外交問題が一気に解決するこはないでしょう。

どんな局面にあっても地道で粘り強い信頼関係の構築を続けることこそが、唯一の打開策であることを歴史は教えているのです。