レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

羆嵐


1915年(大正4年)、北海道苫前郡内の開拓村で獣害史最大の惨劇が発生します。
それはヒグマが人を襲い、7名が死亡、3名が重傷を負ったという悲惨な出来事であり「三毛別羆事件」として知られています。

しかも襲われた人間は山菜を取りに行った途中でも登山の最中でもなく、人間の暮らす集落に姿を現し家の壁を突き破って襲撃するという驚くべきものでした。

人間を獲物として認識したヒグマは火を恐れることもなく、焚火によって身を守ろうとした人びとを次々と襲撃してゆきます。
そしてついに開拓民たちは村を放棄し避難することを選択します。

やがて警察や青年団によって200名もの討伐隊が組織され、さらに軍隊にまで出動が要請されるという事態に発展します。

しかし余りにも巨大で兇暴なヒグマを目の前に人びとは震え上がり、統制は乱れがちになります。
その中でヒグマ退治に立ち上がったのが、半世紀にもわたり熊撃ちを続けてきたある1人の初老のマタギだったのでした。

本書はこの三毛別羆事件を題材にした小説です。

故人の遺族を考慮して名前を変えている部分はあるものの、事件の発生前からその後の顛末に至るまでが詳細に描かれています。

第三者の立場で淡々と出来事を描いてゆく吉村昭氏のスタイルはこうした題材にもっともマッチしているといえます。

今から100年前の事件ですが、手付かずの自然が開発されてゆくにつれ、人間と野生動物がうまく共存できなかった故の悲劇を見ることもできるのです。