漂流
船乗りが突然の嵐に襲われ漂流し、やがて無人島に辿り着く。。
生き延びるためにはそこで飲水や食料を探し出す必要があり、雨風を凌ぐための住居を確保しなければなりません。
やがて無人島での生活が安定してくると、故郷に帰るために島から脱出する方法を試行錯誤してゆくことになります。
これを十五少年漂流記風に描けば冒険小説ということになりますが、本書は江戸時代に無人島へ漂流することになり、そこで13年間もの時間を過ごし奇跡的に帰還した土佐(高知県)の船乗り長平の史実に基づいた小説です。
長平が漂着した島は現在の伊豆諸島南部に位置し、現在も無人島でありつづける鳥島です。
周囲6.5km、草木はまばらで水源もない苛酷な環境下にある島でしたが、温暖な気候でアホウドリの繁殖地であるという幸運にも恵まれました。
実際に長平たちが無人島で生き延びた具体的な方法については本作品の醍醐味でもあり、ここで詳細を紹介することは控えますが、某テレビ番組の無人島サバイバル生活を見ているようなエンターテイメント性があります。
しかし忘れてはならないのは、長平たちは文字通りのサバイバルを体験したのであり、仲間たちの死、故郷に戻れる保証がない絶望と隣合わせの精神状態といった切迫感と悲壮感が読者にも伝わってきます。
著者が江戸時代の漂流者の記録に興味を持ったきっかけは、終戦後に南の島々から突然のように姿を現し帰国した日本兵へ対する驚きであると述べています。
世間からまったく隔離され、家族あるいは恋人に2度と会えない不安、そして彼らにとっても自分がすでに過去の人(故人)となっている風景を想像すると絶望的な気持ちになるのも分かります。
運良く故郷へ帰還して歓喜の再会を果たす者もいれば、妻が未亡人として再婚し家族離散という悲哀を味わう者もいるのです。
いずれにしても極限状態を経験した長平の壮絶な人生が読者に感動を与えるとともに、日々何気なく過ごしている私たちがいかに快適な暮らしに恵まれているかを実感させてくれるのです。