レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

新陰流小笠原長治


歴史小説好きの私にとって小笠原長治の名前は知っていても、戦国時代の剣豪といった程度の印象しか持っていませんでした。

何と言っても戦国時代の主役は武将たちであり、上泉伊勢守塚原卜伝柳生宗厳・宗矩宮本武蔵といった有名どころの剣豪でなければ具体的なイメージが沸いてきません。

しかし津本陽氏は、本作品の主人公・小笠原長治をはじめ一般的に知られていない剣豪を題材にした作品が多く、私にとって新たな発見で喜ばせてくれるのです。

簡単に説明すると小笠原長治は、剣聖と呼ばれた上泉伊勢守の孫弟子であたる人物で、戦国後期から江戸時代初期に活躍した剣豪です。
ほぼ同世代には示現流の開祖となった東郷重位がおり、彼も津本陽氏によって「薩南示現流」という作品で主人公として描かれています。

小笠原家は武田家につらなる名族でしたが、今川、武田、徳川、そして北条といった勢力に翻弄され、長治も幼少の頃より戦国の厳しさ身をもって経験しながら育ちます。

最後に仕えることになった北条家が秀吉の小田原征伐によって滅亡した時点で長治は二十歳の青年でした。

幼い頃より権謀術数を目の当たりにし、自らが生まれ育った小笠原家が戦乱に翻弄されるのを体験し、戦国武将としてではなく一介の武芸者としてひたすら剣の道を極める道を選びます。

長治が同時代に活躍した剣豪たちと違うのは、未知なる強敵を求めて琉球、そして(大陸)へと渡り、双節棍(ヌンチャク)や矛といった、日本には無い武器の達人たちと渡り合ったことです。

異国の地で腕試しというエピソードは大山倍達を主人公にした「空手バカ一代」にも通ずるものがあり、小笠原長治がその先駆けだったと考えると、時代を超えた男のロマンを感じてしまうのです。