日本を蝕む「極論」の正体
著述家の古谷経衡(ふるや つねひら)氏が、日本中のあらゆる場所で目にする機会が増えたさまざまな"極論"へ対して検証してゆく1冊です。
最初に著者は、極論は常に競争のない閉鎖的な集団や組織から発生すると指摘しています。
例として世界革命を唱えた共産主義者の一派、終末思想とテロを結びつけたオカルト宗教団体、現代であれば電子掲示板に代表されるネット空間など挙げていますが、もともと常識人であっても強烈な同調圧力の中で次第に極論を正論と思い込むようになってゆくようです。
そもそも曖昧な要素のない(=思考する必要のない)極論の方が人間の心を惹き付けやすいといった側面があるかもしれません。
以下は本書で取り上げられている極論の一部です。
- 日本共産党による「内部留保批判」
- 右翼、左翼による「TPP亡国論」
- 政府による「プレミアムフライデー」
- ネット上で囁かれる「日本会議黒幕説」
著者自身はかつて保守・右派と呼ばれる業界にいたと告白していますが、今は右派、左派とも適度に距離を置いているようです。
それだけにパトロンのいない自身の境遇を自由ではあるが孤独で貧乏と自虐的に語っていますが、それはともかく特定の組織だけと密接に関わる状況下で自由な発言が抑制されてしまうことは容易に想像できます。
本書で解説されている極論へ対する反論はいずれも専門的で難解なものではなく、わかり易い例と自身の取材内容を元にした誰にでも理解できる内容になっています。
私自身は極論に流されない方だと勝手に思い込んでいましたが、本書を読む進めてゆくとその自信が揺らいでくるような内容もあり、改めて身近に極論(もしくは極論に近いもの)が溢れていることに気付かされます。
ネットの普及とともに爆発的に増加する情報の中で必要なことは、受け身だけでなく自分の頭で考える姿勢、具体的には常に情報を疑って裏をとる癖が必要になってくるのではないでしょうか。
ちなみに私自身が最近身近に感じる"極論"は、Webメディアに掲載されるニュースです。
特にWebの場合、記事の見出しを10文字程度で表示する慣習があるために、アクセス数を稼ぐためにインパクトのある、つまり極論としか言いようのないタイトルを目にすることが多いのです。
これも著者流にいえば、Webメディアがなりふり構わずアクセス数を稼げばよいという体質を持った閉鎖的な組織になりつつあるといったところでしょうか。