小説出光佐三 ~燃える男の肖像~
昭和を代表する実業家である出光佐三の伝記小説です。
著者は「黒部の太陽」で知られる作家・木本正次氏であり、株式会社復刊ドットコムより2015年に復刊されたようです。
出光佐三といえばすぐに出光興産を思い出しますが、今年に入って昭和シェルの経営統合を行い"出光昭和シェル"として5.8兆円もの売上を誇る巨大企業になっています。
創業者の出光は裸一貫で会社を立ち上げ、当然のように順風満帆であった訳ではなく、何度もの倒産危機を乗り越えて会社を成長させてゆきます。
本書にはその歴史がかなり細部に渡って収められているだけにかなりのボリュームがあるものの、それでも立志伝として濃い内容に仕上がっています。
ここでは詳しく触れませんが、戦前~戦後の激動期に起業家として成功した人物にはある共通点があるように思えます。
あくまでも個人的な解釈ですが、それを本書を例に簡単にまとめてみました。
- 時代の先を読む
- ピンチへ対して真っ向から立ち向かう
- 運がよい
- 経営へ対して哲学を持っている
まず"時代の先を読む"については簡単です。
創業当時(明治44年)はまだ石炭が機械の主な動力源でしたが、出光はいち早く石油が燃料となる時代が来ること見抜いていました。
"ピンチへ対して真っ向から立ち向かう"については、経営者以前に人間としての意志力が試されます。
世界中の石油が海外資本(いわゆる石油メジャー)に支配される中、出光は直接イランからの石油輸入に挑戦します。
もちろん業界の猛烈な反発に合いますが、臆することなくイラン首相と直接交渉するなど真正面から突破口を開きます。
"運がよい"は結果論にならざるを得ませんが、やはり重要な要素です。
すぐに思いつくのは、出光が起業する際に当時で6千円(現代であれば6千万円)もの大金を援助した資産家・日田重太郎の存在です。
日田は出光の人間性に惚れ込み、利子も返却する必要もないと言いながら資金を提供しました。
最後に"経営へ対して哲学を持っている"ですが、これは強烈な個性が会社経営へ反映された結果でもあります。
その中でも「黄金の奴隷になるな」はよく知られている言葉で、目先の利益を追い求めることで"義理"や"品性"に欠く行動をしてはならないことを意味し、現代でも共感できる内容です。
一方で敗戦直後にも関わらず社内訓示で戦勝国アメリカを批判し、天皇崇拝や神州日本を公言するアクの強さもありました。
出光は"三千年の歴史を有する民族"としての日本人をつねに意識し続けた人物でもあり、こうした訓示も敗戦によって自信を失った社員たちが将来を悲観することを防ぎ、再建への苦難を乗り越えるための勇気を与える効果がありました。
ちなみに百田尚樹氏が2012年に発表し注目を集めた「海賊とよばれた男」でも出光佐三をモデルにした主人公が登場しますが、こちらが物語性を重視した作品であるのに対し、本書は登場人物がすべて実名で書かれており、昔からある伝記形式の作品であるという特徴があります。
当然のようにあらすじは似ていますが、2つの作品を読み比べてみるのも面白いかも知れません。