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VTJ前夜の中井祐樹 七帝柔道記外伝


抜群に面白い青春スポーツ小説「七帝柔道記」を読んだあと"七帝柔道記外伝"という副題に釣られて立て続けに、手にとったのが本書です。

3つのノンフィクションと2つの対談が収められていますが、何と言ってもタイトルにもなっている「VTJ前夜の中井祐樹」に注目してしまいます。

"中井祐樹"は、北海道大学の柔道部で著者(増田俊也氏)の3学年下の後輩であり、彼は柔道部の副将として主将の吉田とともに七帝柔道で悲願の優勝という快挙を果たします。

七帝戦とは己のすべてをそこに賭けて戦う壮絶な大会ですが、彼の目はもっと遠くを見つめていました。

それはプロの格闘家として生きてゆく道です。

今でこそMMA(総合格闘技)というジャンルは日本のみならず海外でも確立していますが、当時(1992年)はプロ格闘技とプロレスの区別さえ曖昧な、そもそもマーケットさえ存在しない不安定な世界でした。

そんな困難な荒野へ理想だけを持って駆け出した中井には、青春というにはあまりにも過酷な茨の道が待っていました。

試合で負った大怪我が原因でわずか3年間で格闘選手を引退せざるを得ない状況になってしまった中井ですが、彼が引退後した後に空前の格闘技ブームが訪れ、大晦日には格闘技中継が乱立していた時代がありました。

一時は下火になったものの世界中で"MMA"というジャンルが確立しつつあり、再び盛り上がり始めている気配があります。

まだMMAというジャンルを過去を振り返るタイミングではないのかも知れませんが、マイナースポーツだった時代にその基礎を築いた先人がいたことを思い出す機会が必ず来るはずです。

つまり本書は過去に言及しつつも、MMAの発展に貢献した中井祐樹という存在へいち早くスポットライトを当てた作品であるとも言えます。

彼の遺伝子を受け継いだ選手が再び世界を席巻する日が来ることを期待せずにはいられません。