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鉄砲無頼伝


信長台頭以前の戦国時代を代表する鉄砲軍団といえば雑賀衆根来衆が有名です。

雑賀衆を率いた鈴木孫市は有名で多くの歴史小説に登場しますが、根来衆を率いた津田監物(けんもつ)を知っている人は少ないかも知れません。

監物は種子島に鉄砲が伝来してから間もない時期に自ら島まで出向いて鉄砲を入手します。

帰郷した監物は根来の鍛冶職人を組織し鉄砲の大量生産に成功すると同時に、根来寺の僧兵たちに鉄砲の訓練を施して傭兵軍団を作り上げます。

白い袈裟頭巾をかぶった山法師の格好をした僧兵軍団が鉄砲を担いで戦場に現れ、次々と敵兵を撃ち倒す光景を想像すると謎めいた魅力を感じます。

つまり監物は日本ではじめて鉄砲の量産を成功させると共に、その有用性を戦場で証明したという輝かしい功績があるのです。

ただし津田監物の活躍は、信長が台頭する時期より前ということもあり、それほど知られていないのです。


本作品では監物が根来衆を率いて足利義輝三好長慶松永久秀といった近畿地方の勢力の中で活躍する姿が描かれています。

根来衆は傭兵軍団であり、恩賞の金額次第で雇い主を裏切ることもあれば、旗色が悪い味方を見捨てることもあります。
要するに監物率いる根来衆は、忠義心という美学を微塵も持ち合わせていないのです。

そろそろ合戦に飽きてきたし、金もたんまり稼いだから紀州に帰ってのんびり過ごしたいという心情は、領土を巡って争い続ける普通の武士たちには無い感覚です。

剣豪小説が多い津本陽氏の作品の中では珍しいストーリーですが、殺伐とした戦国時代を悠々と生きてゆく男たちの魅力が詰まっている1冊です。