朱鞘安兵衛
タイトルの朱鞘安兵衛でははなく、堀部安兵衛といえばピンと来る人も多いのではないでしょうか。
本書は赤穂浪士四十七士の1人して知られている堀部安兵衛(武庸)を主人公にした歴史小説です。
著者の津本陽氏といえば剣豪小説で知られていますが、赤穂浪士随一の剣の使い手といえばこの安兵衛ではないでしょうか。
安兵衛は越後新発田藩の物頭役・中山弥次右衛門の嫡男として生まれます。
しかし父・弥次右衛門は失火の責任を問われて、家禄召し上げ、領地追放という不幸に見舞われます。やがて父は失意の中で病死しますが、幼い頃より父から新陰流の手ほどきを受けてきた安兵衛は、剣術修行の旅に出ることになります。
上州・馬庭念流道場で剣術を学び、やがて江戸に上がり直心影流の堀内道場に入門することになります。
そこで講談で有名な高田馬場の決闘などを経て、播磨国赤穂藩の堀部弥兵衛金丸の養子となりますが、ここまでの経歴を見ても安兵衛の半生が波乱万丈だったことが分かります。
剣術に励み、その武勇が評判になり浪人から立身出世を遂げたのですから、武士としての大いに面目を施したといえるでしょう。
しかし忠臣蔵で知られている通り、その幸せは長くは続きませんでした。
数年後に赤穂事件が起こるからです。
藩主・浅野内匠頭は切腹、領地も幕府に没収されるにあたり、安兵衛には旧縁のある新発田藩から仕官の誘いがあったようですが、それを断り主君の仇討ちを決心するのです。
本作品の中心はあくまでも安兵衛であり、忠臣蔵の物語はあくまでも作品の背景に過ぎません。
安兵衛は仇討ちを計画する浅野家旧臣の中でも、急進派の中心人物ととして知られます。
腕は確かで勇気と義侠心も充分に持ち合わせてい一方で、仇討ちの成否よりも一刻も早く主君の恨みを晴らすための決行を急ぐところはいかにも安兵衛らしさといえます。
忠臣蔵に登場する浪士の中でも大石内蔵助とはまた一味違った、堀部安兵衛の爽やかさ際立つ作品です。