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骨が語る日本人の歴史



本書の著者・片山一道氏は骨考古学の専門です。
骨考古学というとほとんどの人に馴染みが薄いですが、発掘された人骨を調べ、当時の人の様子を明らかにする学問だといいます。

本書では
  • 旧石器時代人
  • 縄文人
  • 弥生人
  • 古墳時代人
  • 中世以降
という順序で時代ごとの人骨の特徴を紹介しています。

旧石器時代の人骨は発掘数が少なく多くを語ることは難しいようですが、その後約1万年に渡って続く縄文人はかなり特徴的だったといいます。
骨太で小ぶりで頑丈な体格。下半身が発達した体形。大頭大顔で寸詰まりの丸顔の顔立ち。
大きな鼻骨と下顎骨、そして彫りの深い横顔は、世界中くまなく探しても類を見ないほどに特異的である。
著者はこれを当時の日本列島(縄文列島)の独特な風土が深く関わり、外界と長く孤立してきたことが要因であると推測しています。

しかし弥生時代になると、なにかもが様変わりするというから驚きです。
すなわち長い平坦な顔、低い鼻、細い顎、高めの身長といった縄文人と対照的な特徴を持っています。

一方で近畿地方や九州西北部や南部、四国や東海地方の以東以北では縄文人の特徴を持った人骨が多く発見され、多様性というのも弥生時代のキーワードになります。

またこうした発掘状況から著者は
「弥生人が縄文人に置き換わった」
「大陸からの渡来人が縄文人を駆逐した」
といった二分論には反対し、生活様式の変化、そして両者が徐々に混合していった結果であると主張しています。

古墳時代は以降はのちの日本人に共通する中顔、中頭、中鼻、中眼、中顎、体形は胴長短脚の傾向が多くとなるといいます。

中世以降もこの特徴は続きますが、身長は低くなり続け、虫歯が多くなる傾向が出てくるようです。

また最近70年における日本人は顔立ちも体形もすべてが特異に変化したといいます。
平均身長が10cm以上も高くなり、著者は歴代の日本列島人の中に紛れても、すぐに現代人だと正体がバレるだろうと言います。

原因は定かではないが乳幼時期の栄養条件、食事の西欧化が要因であると推測しています。

ここから分かるのは、生活環境が変わるとたった1代で人骨の特徴が大きく変わり得るということです。

こう考えると縄文人が弥生人型の人骨に変化していったというのも説得力があります。

本書を通じて重要だと感じることは、残された文献や遺跡だけが歴史ではないということです。
物言わぬ人骨は正真正銘の歴史性を有しており、そこからは従来とは違った角度から歴史の変容を推察することが出来ます。
それこそ著者の唱える「身体史観」であり、そこからは歴史上の事件や事象を追うだけでは見えてこない、当時の人びとの生活が見えてくるのです。