それでも、日本人は「戦争」を選んだ
著者の加藤陽子氏は東京大学の文学部教授であり、本書では著者が中高生へ行った5日間の特別授業の内容が収められています。
テーマはタイトルにある通り、近代史における日本が戦争を行った理由であり、以下のように分かりやすく順を追って授業が進められてゆきます。
- 日清戦争
- 日露戦争
- 第一次世界大戦
- 満州事変と日中戦争
- 太平洋戦争
中高生向けということで噛み砕いた内容かと思えば、大人にとってもかなり読み応えのある内容になっています。
歴史の教科書であれば年号や出来事、人物名の暗記が中心ですが、本書の授業ではつねに
「なぜこのとき日本はこのような決断を下したのか?」
を考えることが求められます。
代表的な例として、なぜ日本は長期化しつつある中国との戦争、朝鮮や満州の防衛といった課題がある中で、さらにアメリカヘ対して無謀ともいえる太平洋戦争の開戦に踏み切ったのかという疑問があります。
もちろん戦争を決意した当時の首脳陣たちは最初から負けることを覚悟していた訳ではなく、彼らなりの勝算があったのです。
それを知るためには過去の出来事を1つずつ取り上げるのではなく、連続した流れの中で理解する必要があります。
政治、経済、軍事的要素だけでなく、当時の民衆心理や社会的背景、相手国(中国、ロシア、アメリカ)の立場からの視点でも考察する必要があるでしょう。
著者の紹介する史料は一般的な歴史教科書には掲載されていない、たとえば日記やメモ、演説内容といったものであり、当時の人びとがどのように状況を把握していたかが分かる新鮮なものばかりです。
過去の出来事を調べるのは手段でしかなく、歴史学の本質は先人たちの言動から何を教訓にすべきかを学ぶことにあります。
一方で同じ過去の出来事から導き出される教訓が人によって正反対であることも珍しくなく、仮に人間が歴史からつねに正しい教訓を引き出す能力があれば、今の世界は限りなく平和だろうと思います。
つまり歴史の年号や人物名には正解がありますが、本来歴史学に正解はないのかも知れません。
本書の内容は、なるべく正しい教訓を歴史から引き出すための材料を提供する授業であり、そこには歴史は暗記科目といったマイナスイメージから脱却するヒントがあるように思えます。
ちなみに先生(著者)からの質問に対する学生からの回答内容は大人顔負けであり、学生たちの優秀さにも驚かさせられます。