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ラヴクラフト全集 4



H・P・ラヴクラフトの全集第4巻です。
本書には7作品が収められています。

  • 宇宙からの色
  • 眠りの壁の彼方
  • 故アーサー・ジャーミンとのその家系に関する事実
  • 冷気
  • 彼方より
  • ビックマンのモデル
  • 狂気の山脈にて

    • 前半の6作品は比較的短編の作品が収められていますが、その中でも個人的にお勧めは「宇宙からの色」です。

      舞台はラヴクラフト作品でお馴染みの架空の町・アーカムの西にある丘陵地帯です。

      そこには誰も近寄ろうとしない不気味な焼け野原になっている一帯がありますが、そこを訪れた測量技師がその理由を近所の老人たちに訪ねても誰も口を開こうとしません。

      ただ1人、孤立して1人で暮らす老人アミ・ピアースが重い口を開き、その真実を語り始めるのです。。

      すべての出来事は宇宙からの飛来した謎の隕石から始まっており、この作品はラヴクラフトらしい怪奇小説というよりSF小説のような雰囲気がありますが、解説を見るとまさにSF雑誌に掲載された作品ということです。

      正体不明の恐怖的存在によって日々が少しずつ侵食されてゆくようなストーリー展開が素晴らしく、完成度の高い作品です。

      狂気の山脈にて」はラヴクラフト作品の中で屈指の長編であると同時に、代表作の1つとして知られています。

      この作品を執筆した1931年当時の南極大陸を舞台とした作品で、アムンセンが1911年に南極点に到達してからちょうど20年後に執筆されています。

      ミスカトニック大学(これもラヴクラフト作品でお馴染みの架空の大学)の調査隊が南極大陸を訪れるところからストーリーがはじまりますが、当時南極について知られていた科学的知識を十分に取り入れることでリアリティあふれる作品になっています。

      そこでかつて5000万年も昔から地球を支配していた"古のもの"たちの都市を狂気山脈と名付けられた山中で発見するというスケールの大きな物語です。

      はじめて人類が足を踏み入れた場所で人知を超えた技術と生命体を発見するというアドベンチャー的な要素がありますが、何よりもラヴクラフトの持つ独自の世界観がストーリー中において明示されているという点で注目の作品です。

      ただラヴクラフトを代表するこの作品でさえ、1度は雑誌への掲載を断られた経歴を持っており、彼が生前いかに不遇であったかを示すエピソードでもあります。

      確かに彼が造り上げた世界観はユニークで精密である一方、難解で理解されにくい面があるのは確かです。

      それでも宮沢賢治スタンダールのように生前の評価は低くとも、後世で評価される作家は珍しくなく、ラヴクラフトは時代を先行し過ぎた天才の1人だったように思えます。