レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

大往生の島



ノンフィクション作家である佐野眞一氏が1997年に発表した作品です。

瀬戸内海に浮かぶ周防大島、その中でも東和町(2004年に合併)にある沖家室(おきかむろ)という地域が作品の中心舞台になっています。

1997年当時で東和町は高齢化率が日本一の50%に迫る割合であり、その中でも沖家室は10人に7人以上が65歳以上、つまり高齢化率が71.1%という飛び抜けて高い地域です。

ただし著者が取材するきっかけとなったのは、単に超高齢化地域という理由ではなく、生きがい調査で90%近くのお年寄りが今の生活に満足していると回答しているという点であり、その時の心境を次のように語っています。
私が沖家室に興味をもったのは、過疎化と高齢化を示すこうした異常な数値以上に、この島が、理想的な"大往生"の要件をほぼ完璧に備えているように感じたからである。この島は私の目には、老人同士お互い助けあいながら老後を生き生きとすこし、從容として死におもむいているようにみえた。

沖家室は周防大島の属島ということもあり、橋は架かっているもののかなりの僻地であり、スーパーやコンビニが近くにないのはもちろん、医療施設なども充分には整っていません。

勝手に言わせてもらえば、そこからは若者が少なく活気のない暗い雰囲気の漁村というイメージが湧いてきます。

普通であれば不便な地域に住んでいるお年寄りが満足して暮らしているのは矛盾しているように思えますが、それを解き明かすことが本書の目的であるといえるでしょう。

著者は足しげく沖家室で取材を続け、多くの住人たちの話を聞いています。
もちろん人それぞれ事情は違いますが、共通しているのは暇をもて余している人がいない、また独居老人の割当が多いにも関わらず孤独を感じている人が極端に少ないという点です。

誰でも体の動くうちは畑をやり漁に出て、またはボランティアの形で地域に貢献することを生きがいとし、この地域では高齢者が高齢者を介護する老老介護が自然に機能しています。

また瀬戸内海の豊かな自然がもたらす山海の幸、親子が離れて暮らしていても家族的な機能が働いているという特有の地域文化など、さまざまな要素が合わさっています。

"超高齢化社会"という言葉は後ろ向きな文脈の中で使われることが多いですが、本書からは前向きに高齢化社会と共存していくためのヒントが詰まっている気がします。