レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ラヴクラフト全集 5



H・P・ラヴクラフトの全集第5巻です。
本書には8作品が収められています。

  • 神殿
  • ナイアルラトホテップ
  • 魔犬
  • 魔宴
  • 死者蘇生者ハーバート・ウェスト
  • レッド・フックの恐怖
  • 魔女の家の夢
  • ダニッチの怪

    • 全集を読むまでラヴクラフトの作品はストーリーこそ違えど、どれも似たような雰囲気であると思っていましたが、実際には世界観こそ共有ながらも、作風にはかなりの多様性があることが分かってきました。

      1作品目の「神殿」はドイツ潜水艦を舞台にしたSFホラー的な雰囲気がある作品であり、迫りくる恐怖と緊迫感の中で乗組員たちの集団心理がよく描かれている作品です。

      続く「ナイアルラトホテップ」ではまったく作風が変わり、短編ながらも詩的な雰囲気をもつ散文調で執筆されています。

      また「魔犬」には"墓場"、"生ける死者"、"マッドサイエンティスト"といったキーワードが登場する古典的なホラー小説ということができます。

      魔宴」は一人称視点から未知の恐怖を描いてゆくという、典型的なラヴクラフトらしい作品といえます。

      後半に登場する4作品は読み応えのある中編~長編小説であり、やはりそれぞれ違った作風と魅力で読者を楽しませてくれます。

      ラヴクラフトの作品はのちにコズミックホラー(宇宙的恐怖)という分野を確立したと言われる通り、人間の生きる(理解できる)世界を超越した外宇宙的存在が恐怖の対象であり、それゆえ安易に幽霊やモンスターが登場することは殆どありません。

      そういう意味で本書の最後に掲載されている「ダニッチの怪」では、異界より召喚(?)された得体の知れないモンスターが人間や家畜を襲うというラヴクラフト作品の中では珍しい展開のストーリーです。
      それでもやはりラヴクラフトらしさを随所に見ることができます。

      それは幾つもの難解というよりも不可解な伏線の上に成り立っているストーリーであり、その全貌は作品を読み終えてさえ明らかにされないのです。