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ラヴクラフト全集 7



H・P・ラヴクラフトの全集もいよいよ最終の7巻です。
本書には13作品と若き日の作品、そしてラヴクラフトが友人宛に自分の見た夢を伝えている書簡が収録されています。

  • サルナスの滅亡
  • イラノンの探求
  • 北極星
  • 月の湿原
  • 緑の草原
  • 眠りの神
  • あの男
  • 忌み嫌われる家
  • 霊廟
  • ファラオとともに幽閉されて
  • 恐ろしい老人
  • 霧の高みの不思議な家
  • 初期作品
  • 夢書簡

    • 私小説を手掛ける作家の全集を読めば、必然的にその作家自身の生い立ち、そして思考してきことが大体分かるのですが、怪奇小説というジャンルで活動を続けてきたラヴクラフトの場合にもそれは当てはまりそうです。

      ラヴクラフトは46歳という若さで亡くなり、彼の作家としての活動は正味15年程度と決して長い期間ではありません。

      それでも多くの作品を残しており、のちにコズミックホラーと呼ばれるジャンルの先駆者としての作品が世の中に知られていますが、クラシックなホラー小説、ダンセイニ風と言われる壮大な幻想小説、さらにこれらの要素が少しずつミックスされた作品もあり、この全集によってラヴクラフトが幅広い作風を持っていることが分かります。

      現実世界のラヴクラフトは世間に評価されることもなく、その結果として経済的にも余裕がある生活とは縁遠かったようですが、うまくいかない現実へ対する不満や怒りを作品へ投影するタイプの作家ではありませんでした。

      物質的な豊かさをそれほど重要視せず、想像や空想の世界に思いを馳せ、それを作品として描き続けてきた人生のように思えます。

      本書の後半にラヴクラフトの初期作品が5つほど収録されていますが、どれもストーリーやシチュエーションがわかり易く描写されており、かなり読みやすい作品です。
      しかし作家としての成熟期に入れば入るほど、婉曲的で難解な表現へと変化してゆき、作品に奥行きと独特の雰囲気が出てくるのが翻訳版の作品を通してでも分かります。

      これははじめは単純に作家としての技量が充分でなかっただけでなく、万人受けするストーリーを作り上げようとした野心もあったような気もします。

      子どもには大人より圧倒的に空想にふける時間が多いですが、ラヴクラフトの場合は成熟すればするほど想像力が増してゆき、同時に作家としての研ぎ澄まされた創造力となって現れたような気がします。

      つまり表面的に彼を悲運の作家として評価するのは短絡的なのかもしれません。

      さらに彼は本書に掲載されている夢書簡から分かるように、自分の見た夢からも作品を生み出してることも分かります。

      私が小説を書くとすれば、感覚ではなく理論的にストーリーを組み立ててゆくと思います。
      しかしラヴクラフトは夢や空想といった出発点から物語性よりも、世界観や雰囲気を重視して作品を創り上げられる稀代の作家だったように思えてなりません。