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戦争史大観



旧帝国陸軍において随一の戦略家と言われるも、東条英機との戦略面での確執から左遷された石原莞爾
つまり第二次世界大戦では不遇だった石原でしたが、それ故に敗戦後の戦犯リストからは除外されました。

そんな石原を再評価する書籍を目にしたことがありますが、私自身は関東軍作戦参謀として柳条湖事件満州事変の首謀者であったという程度の知識しかありませんでした。

本書は石原が講演した内容を自身で書籍にまとめたものであり、西欧を中心した戦争史の研究、そしてそこから日本の取るべき戦略を提言している内容になっています。

西欧戦争史といってもすべてを網羅している訳ではなく、主に言及しているのはプロイセン国王フリードリヒ2世、そしてフランス皇帝ナポレオンの2人に絞って考察を行い、そこにルーデンドルフヒトラーを付け足したような内容です。

また石原の提唱した中で有名なのが、世界最終戦論です。
これは西洋文明と(日本を中心とした)東洋文明の間に近い将来、大規模な最終戦争が行われ、その結果として日本側が勝利し、世界が統一され絶対平和が訪れるというものです。

石原は熱心な日蓮宗徒としても知られており、この考えの背後には日蓮聖人の遺した予言の内容が大きく関わっており、理論的な帰結といより多分に宗教色の強い考えから成り立っています。

前述した通り、石原は当時の首相であった東条から左遷されましたが、もし石原が首相の立場であり、旧日本帝国軍の戦争指揮を下せる立場であったらどのように歴史が変わったのだろうという視点で本書を読んでみました。

まず石原は世界最終戦争に備えて東亜連盟を成立させようとしました。
少なくとも日本、朝鮮、中国、そして満州を中心とした連合軍をもってアメリカ、ソ連を中心とした西欧諸国と対決する構想がありましたが、ほぼ大東亜共栄圏と同じ考えと見て間違いなさそうです。

そのため日中戦争には断固反対し、東亜同盟を構成する国々には独立した国家民族の意思を尊重し、従来の植民地的政策には反対していました。

ただし東亜同盟の中心には天皇を置き、求心力とすることが大前提であることから、同盟国民族の意思を尊重する点とは矛盾しているように思えます。

次に空軍戦力の重要性を訴え、勝敗を左右する決定的要素として挙げたのは戦略家として先見の明があります。
旧日本帝国軍はこうした考えに消極的であり、石原や山本五十六といった空軍増強の必要性を訴える軍人は少数派でした。

ただし空軍技術の飛躍的な革新を行うために日本に世界一の科学と工業力を備える必要性を訴えますが、当時日本の資源や経済力を考えると実効性の乏しい理論にしか思えませんでした。

また石原はヒトラーが実現させた全体主義体制を理想として称賛していました。
本書はナチスドイツが電撃作戦によりヨーロッパを席巻していた時期に執筆されていただけに当然といえますが、簡単に言えば東条らの主導した国家総動員体制と何ら変わりないといえるでしょう。

結果として石原の画策した構想は旧日本帝国の打ち立てた方針の亜流に過ぎず、やがて訪れる悲劇的な結末に大差があるように思えませんでした。

それでも石原莞爾のように、自分の構想を書籍の形として発表した軍人は少なく、貴重な資料として後世に残すことには意義があると思えます。