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ハムレット(松岡和子 訳)



夜な夜な現れる先王の亡霊。

ハムレット王子は亡霊(父親)から自分の死は毒蛇に噛まれたことによる事故死ではなく、ハムレットにとって叔父にあたる人物によって毒殺されたことを告げ、復讐を果たすようにと言い残して消えます。

ちなみに叔父はデンマーク王となり、先王の妻(つまりハムレットの母親)はその叔父と再婚し、現在も王妃という地位にいます。

有り体に言えば、どの王宮にもありがちなお家騒動というのがハムレットの舞台になります。

先王が毒殺されたという事実は、ハムレットを除けば実行犯である叔父しか知らない真実であり、証拠もないことから、宰相のポローニアスをはじめ多くの家臣は王と王妃の味方をします。

いわば孤立無援といった形のハムレットですが、彼は赤穂義士のような一途なタイプではなく、王子という恵まれた環境に育った人物にありがちな皮肉屋で気分屋といった性格を持っており、たとえば厳粛な場面でも軽快な冗談を飛ばしてしまうタイプです。

しかしシェイクスピアは、ハムレットをこうした自由奔放なキャラクターに仕立てることで、舞台映えする名台詞を生み出します。

訳者によって多少の違いがありますが、簡単に抜き出しただけでもハムレットには次のような後世に残る名セリフが登場しています。
血のつながりは濃くなったが、心のつながりは薄まった。
この世の関節がはずれてしまった。ああ、何の因果だ。それを正すために生まれてきたのか。
生きてこうあるか、消えてなくなるか、それが問題だ。
習慣という怪物は、悪い行いに対する感覚を喰らい尽くします。

先述のようにハムレットは気分屋ではあっても頭は切れ、実行力も兼ね備えた若者です。
そこで彼は相手を油断させるために、狂人のフリをするという作戦を思いつきます。

もちろん単純な復讐劇の物語で終わるはずもなく、王の右腕ともいうべき宰相ボローニアスの娘オフィーリアがハムレットの恋人という、復讐の障壁になりそうな設定も用意されています。

他にもハムレットや王へ二枚舌を使う政治的な動きするを友人が現れたりと、さぞ賑やかな演劇になるだろうという感じでストーリーが進んでゆきます。

やはりハムレットで圧巻なのは、終盤で怒涛のように押し寄せる急展開であり、観客は舞台から目を離せない釘付けの場面となるはずです。

ストーリーのテンポや流れはもちろん、登場人物たちの個性が豊かに表現されており、観客を魅了する演劇としてシェイクスピアの真髄が見られる作品ではないかと思います。