レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ロミオとジュリエット(松岡和子 訳)



現代のエンターテインメント、テレビや映画においても恋愛ロマンスは欠かせない要素ですが、それは演劇の時代から続いてきた伝統です。

そして世界中でもっとも有名な恋愛劇といえばシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」であることは間違いなく、言い方を変えれば恋愛ロマンスのあらゆるエッセンスがこの作品の中に詰まっています。

日本では豊臣秀吉が存命の頃にイギリスで発表された作品ですが、今も世界中で定番の恋愛劇として上演され続けていることがそれを裏付けています。

作品や舞台を見た経験がない人でも大まかなあらすじを知っている人は多いと思いますし、私もその中の1人でした。

舞台はイタリアのヴェローナで、その町の有力者であり宿敵同士でもあるモンタギュー家キュピュレット家の息子(ロミオ)と娘(ジュリエット)が禁断の恋に落ちるというストーリーです。

実際に劇の中で繰り広げられる2人の間のやり取りは、歯の浮くようなセリフが並んでおり、現実的ではないものの、シェイクスピアが演劇を盛り上げるための演出として読めばそれなりに楽しめます。

また作品が制作された時代背景からギリシャやローマ神話の中から比喩を持ってくる頻度が多く、原作に忠実な演劇の場合、楽しむためにはそうした素養も必要になってきそうです。

ただし本書には丁寧な注釈が付いているため、読者が戸惑うことはありません。
また巻末にまとめて注釈の解釈を掲載するのではなく、ページ下部に専用のスペースが設けられているレイアウトにも好感が持てます。

一方で劇の見せ場になるであろう決闘シーンは、台本ではセリフがほとんど無い部分ということもあり、一瞬で終わってしまうことから物足りなさを感じるかも知れません。

これまで紹介してきた「アントニーとクレオパトラ」、「ハムレット」と比べると、ストーリーは単純明快なものの密度は濃く、名作落語のように何度見聞きしても飽きない内容になっているのではないでしょうか。