麻雀放浪記 3 激闘篇
昭和27年、本作の主人公である坊や哲がバイニン(麻雀玄人)となって7年の月日が流れましたが、彼ら博打打ちは1晩でサラリーマンの月収を超える金を手にすることもあれば、同時に失うこともある稼業です。
彼はその世界では名前を知られるようになりましたが、相変わらず着たきり雀であり、家もないため雀荘で仮眠ととるか道路や山手線の車中で寝ているような生活を送っていました。
さらには洗濯や入浴といった習慣もなかったため、外見だけを見れば浮浪者と何ら変わりない状態だったのです。
戦後直後ならまだしも焼け野原だった東京は着実に復興を進めていき、バラック小屋や闇市、そこで屯していた怪しげな人間たちも姿を消しつつありました。
一般人にとっては治安や衛生環境が良くなるという意味で歓迎すべき状況でしたが、戦後の混沌が収まってゆくにつれ違法賭博を生業にするバイニンたちにとっては確実に住みにくい世の中へと移行しつつあったのです。
さらにこの頃から麻雀という遊興が一般に普及してゆき、麻雀賭博を生活の糧としてイカサマ何でもありというバイニンたちの数は次第に減っていったのです。
一方で彼らの代わりに登場してきたのが、スマートな麻雀を打つ次世代雀士たちがであり、彼らは本職を別に持ちながらも賭博麻雀を趣味の範囲で楽しむことをモットーとしていました。
つまり副業で麻雀をやっている人たちです。
少なくとも全財産を(時には命までも)賭けるような麻雀は行わず、彼らを近代的なスタイルとするならば、坊や哲やかつて彼とコンビを組んだことのあるドサ健たちのスタイルは古臭いものになってきたのです。
そんな中、坊や哲は長年の麻雀のやり過ぎが祟ったのか右肘を痛め、イカサマを使うことが難しい状況にあり、行き詰まった末に地下組織から高利な金を借りて麻雀で返すといった危うい生活を続けていました。
彼は組織に所属せず一匹狼として生きてゆくことをモットーとしてきましたが行き詰まり、偶然の縁から会社勤めをするようになります。
しかしその会社の社長が賭博好きであり、次第にその腕を認められた坊や哲は、その会社を中心に、つまりある意味で組織に属しながら麻雀を続けることになるのです。
もっとも麻雀の徹夜勝負で無断欠勤などしょっちゅうという有り様でしたが、賭博麻雀における社長の右腕として重宝されいたためクビになることもなかったのです。
やがて社長の別宅で新しいスタイルの麻雀打ちたちと大きな勝負をすることなるのですが、ここからは読んでのお楽しみです。
坊や哲が厳しい勝負を繰り広げるという点では今までのストーリーと同様ですが、やがて自分のような昔ながらのバイニンが生きる世界が無くなるという予感を抱きつつ麻雀を打っている点が大きく異なります。
勝負に疲れた坊や哲は、もうろうとする意識の中で自嘲気味に、同じ昔からのバイニンであるドサ健へ対して心の中でこうつぶやくのです。
世間の人は、暮らしていくことで勲章を貰うが、俺たちは違う。
俺たちの値うちは、どのくらいすばらしい博打を打ったができまるんだ。
だからお前も、ケチな客をお守りして細く長く生活費を稼ごうなんてことやめちまえよ。 麻雀打ちが長生きしたって誰も喜びはしねえよ。