レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

潜入ルポ アマゾン帝国の闇


アマゾンといえば世界最大のショッピングサイトとしてあらゆる分野の商品を取り扱い、翌日、早ければ当日中に商品を届けてくれるインターネットを利用している人であれば誰もが知っている企業です。

さらに月額(または年額)でアマゾンのプライム会員になると配送費が無料となる上に、映画・TV番組が見放題のPrime Videoが利用できるなど、ほかにも多くの特典が用意されています。

アマゾンの提供しているサービスはそれだけでなく、おもに企業向けにAWS(Amazon Web Services)というクラウドコンピューティングサービスを提供しており、世界中の著名な企業がAWSのユーザであり、この分野でも世界一のシェアを持っています。

私自身もかなり前からプライム会員に加入済みでインターネットで何かを購入する際には、まずはアマゾンで検索する習慣が付いており、その便利さを日々実感している1人です。

アマゾンは「地球上で最もお客様を大切にする企業」を目標として掲げており、そのユーザーは世界中に20億人以上いるというから驚きです。

本書はノンフィクション作家である横田増生(よこた ますお)氏が、帝国というにふさわしい規模を持つアマゾンの闇を取材した1冊です。

まず手始めとして著者はルポ取材の王道としてアマゾンの巨大物流センター(巨大倉庫)にアルバイトとして潜入します。

日本にいくつかあるアマゾンの巨大倉庫の中でも、東京ドーム4個分という床面積を持つ日本最大の小田原郊外の倉庫でピッキング作業を経験する著者ですが、1日で2万5千歩、約20kmの距離を歩くというから驚きです。

若者であってもかなりの運動量であり、年配者にとっては過酷な仕事量といえるでしょう。

しかも作業従事者はハンディ端末の指示によって秒単位で管理・監視され、その実績はすべて数値となって集計され続ける仕組が導入されています。

詳細は読んでからの楽しみですが、あまりに殺伐とした職場であり、ネットの情報だと現時点で1300~1500円ほどの時給でアルバイト募集されていますが、個人的には倍の金額をもらっても働きたくないと思ってしまいました。

続いてアマゾンで注文された商品を配送する宅配ドラバーたちの現状にも迫っています。

著者はヤマト運輸のセールスドライバー、アマゾンと契約する中小の宅配業者であるデリバリープロバイダのドライバに同乗する形で取材に挑みます。

ドライバーたちの仕事量も倉庫でのピッキング作業に劣らず過酷な内容で、ニュースにもなっている物流問題を凝縮したかのような内容になっています。

さらに著者は日本の問題と比較するためにイギリス、フランス、ドイツでも取材を行いますが、そこでも日本と同じ問題が起こっていることが分かってきます。

ほかにもマーケットプレイスへ出店している事業者、フェイクレビューを募集している違法業者、AWS事業の現場などを精力的に取材しています。

読み進むにつれ、普段利用しているアマゾンを支えている裏方の人たちの苦悩が次々と紹介されてゆき、かなり複雑な気持ちになってゆきます。

一方で、小売、物流、製造、医療、福祉、出版、サービス業などあらゆる業種で同質の問題が潜んでおり、本質的には行き過ぎた資本主義の抱える共通の問題であることも分かってきます。

私自身も徹夜で働くことも当たり前であったブラックな環境にいた経験がありますが、彼らの苦しい状況に共感できる部分がありました。

ほかにもアマゾンを創業したジェフ・ベゾスの生い立ちからその考え方を考察したり、アマゾンが世界中で行っている租税回避の取り組み、アマゾンが出版業界へもたらした影響なども取材されており、かなり広範囲に渡って精力的に取材を行っています。

先ほど書いたように本書に書かれている問題はあらゆる業種で共通の問題なのかも知れませんが、時価総額で世界5位の規模を誇るというアマゾンという巨大帝国を精力的に取材した本書は、その代表例といえる内容であり、社会や企業の仕組みの抱える問題を知る上でも読む価値のある1冊です。