レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

前田利家(上)



剣豪小説で有名な津本陽氏ですが、本書は有名な戦国武将を題材にした長編小説となります。

一口に戦国武将といっても色々なタイプが存在しますが、前田利家は「槍の又左」という異名から分かる通り、自らの槍で敵武将の首級を挙げて出世してゆく分かりやすタイプの武将だと言えます。

14歳から戦場に出ていた利家は当時の常識から考えても若い初陣だったようですが、六尺(180cm)を超える立派な体格を備えていたことも関係しているように思えます。

まさに戦国時代の申し子のような人物ですが、合戦では剣豪同士の果たし合いのように1対1での対決ではなく、芋を洗うように敵味方が入り混じっての乱戦になるのが普通です。

つまり最前線で戦う武将たちはいつ背中から敵に狙われるかも知れず、世に名を知られた豪傑が合戦であっけなく命を落とすことも珍しくありませんでした。

常にこうした戦場へ真っ先に飛び込んでゆき敵武将の首級を取ってくる利家は、信長から「肝に毛が生えておるわ」と称賛されるほどでした。

命知らずだけに若い頃の利家は短期で喧嘩早い性格であり、信長の寵臣である拾阿弥と口論になり、ついには斬殺してしまいます。

そのため信長の怒りに触れて勘当となり、一時期は浪人となるような苦労も経験しています。

当時は武将同士がちょっとした言い争いから喧嘩となり、たちまち殺し合いとなる事件が日常茶飯事であり、合戦が身近であった当時の武将の気性がいかに荒かったが分かります。

利家の戦歴は、信長が家督を相続し尾張1国を統一する頃からはじまり、本能寺の変が起こる頃には信長の宿老である柴田勝家の与力として能登一国を与えられるまでに出世しています。

利家にとって勝家は、彼が信長に勘当された際に取り直して帰参させるなど多くの恩を受けた存在でした。

一方で信長亡き後、その後継者の最有力候補として頭角を現した秀吉とも身分が低い頃からの同輩であり、家族ぐるみの付き合いをする仲でした。

それだけに秀吉と利家が賤ヶ岳で戦った際には、思い悩んだはずであり、結果的に中立のような立場を取ることになります。

勝利した秀吉から見ると、利家と勝家の関係性を充分に承知しているだけに、勝家へ助力しなかっただけで充分であったようで、秀吉に重用されてゆくことになります。

本作品は時代背景に関する解説は最小限であり、当時の書状が解説なく掲載されていることも多く、歴史小説の中でもかなり硬派な部類に入ります。

それだけに戦国ファンであれば、かなり読み応えのある作品として楽しめるはずです。