DIE WITH ZERO
タイトルの「DIE WITH ZERO」を直訳すると"ゼロで死ぬ"という意味になります。
これを要約すれば「死ぬまでに、金をすべて使い切る」という生き方になります。
著者の主張は、「金やそれによって得られるモノのために人生を犠牲にするべきではなく、そのときにしかできない経験の合計こそが人生の喜びである」という考えで一貫しています。
従ってすでにそうした価値観で人生を計画し、日々を過ごしている人にとって本書から得られるものはないかもしれません。
一方でなんとなく著者の主張に賛同はしながらも、
- なぜ経験こそが貴重なのか?
- 自分の寿命を予測していつまでにどのような経験をすべきなのか?
- 老後の不安へ対してどのような計画を立てるべきか?
- どのタイミングで資産を取り崩しはじめるのか?
といった具体的な内容について深く考えていない人にとって、著者の示唆することは大いに参考なるのではないでしょうか。
本書は2024年度のビジネス書部門においてベストセラー&ロングセラーを記録しており、逆の見方をすれば多くの人たちにとって本書の内容が新鮮だったということになります。
例えば遺産相続という考えがありますが、著者はいつ、誰に、いくら与えるか今すぐ考え、自分が死ぬ前に与えるべきだとしています。
なぜなら金から価値(経験)を引き出す能力は、年齢とともに低下してゆくものであり、それは自分の子どもへ対しても当てはまるからです。
たしかに高齢になってからのハードな登山や、バックパッカーとして世界中を放浪するような経験をはじめるのは、たとえ資金があったとしても健康上、または体力的な問題で難しいケースが大半です。
著者のビル・パーキンス氏はエネルギー分野のトレーダーとして成功した富豪であり、すくなくとも老後を平均的な支出で暮らし続けた場合、確実に資産を使い切ることのできない人たちを対象に本書を執筆していると思われる箇所があります。
よって現実問題としてたとえば仕事からの収入が安定せず、住宅ローンや子どもの教育費で日々の暮らしに経済的な余裕のない人にとっては、どこか他人事のように思えてしまうのも事実です。
一方で貯金や節約が手段ではなく、趣味や目的にまでなってしまっている人にとっては本書から新しい価値観を得られるのではないでしょうか。
身近な話題であれば新NISAや老後資金、103万の壁といった税の話題、大きな視点でいえば世界経済を牽引するアメリカ企業による株価の上昇や戦争・政治的要因による先行き不透明感もあって、本屋にはかつてないほど貯蓄や投資に関する本が並べられています。
つまり貯蓄や資産運用の方法が書かれた本が多い中で、いかにお金を使うかをテーマにした本書の視点は斬新であるといえ、その辺りに本書がベストセラーになった要因があるのではないでしょうか。