レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

前田利家(中)


津本陽氏による「前田利家」中巻のレビューです。

上巻では利家の14歳の初陣から賤ヶ岳の戦いまでが描かれていましたが、中巻では秀吉の朝鮮出兵(文禄の役)までを描いています。

秀吉陣営の武将となった利家でしたが、当時秀吉と対立していた家康陣営に組みした越中の佐々成政と対峙することになります。

2人の関係は信長存命中、その親衛隊として利家の所属する赤母衣衆、そして成政は黒母衣衆の一員として武勇を競い合ったライバルでもあったのです。

利家は秀吉から能登と加賀の統治を任され、年齢も40代半ばを迎えて昔のように先陣を切って槍1本で敵陣へ突っ込むような立場ではなくなりました。

それでも利家配下の村井長頼、奥村永福といった有能な武将たちを統率することによって、苦戦しながらも成政との戦いを有利に進めてゆきます。

秀吉は低い身分から裸一貫で天下人となりましたが、それだけに信頼できる一族や武将の数が少なく、信長時代から同僚として気心の知れた利家を右腕のように重宝するようになります。

さらに秀吉の妻であるねね(北政所)、利家の妻であるまつ(芳春院)が昔から懇意であったことも大きく関係していたようです。

それでも天下人として関白そして太閤へと昇り詰めた秀吉との力関係には明らかな差があり、いかに利家といえども上手な世渡りが求められる立場となったのです。

五大老の中でもっとも大きな勢力を持ってたのは徳川家康でしたが、秀吉は心の底から彼を信用していたわけではなく、その抑え役としての役割を利家に期待していたのです。

さらに世間の武将たちの目から見ても秀吉政権下で家康と比肩しうる実力と器量を持っているのは利家しかいないという見方が一般的でした。

血の気の多い勇敢な武将という立場から一転して政治的な指導力を求められるようになりながらも、その役割を全うできた武将は少ないような気がします。

たとえば前述した佐々成政は勇猛な武将ではありましたが、天下の帰趨を見抜く力がなく、また政治的な知見も不足していたため破滅へと至りました。

作品では利家がどのような役割を果たしたのかが事細かく記述されており、かなり硬派な歴史小説という印象を受けますが、それだけに前田利家の生涯を知りたいという戦国ファンの期待に充分応えられる作品になっています。