レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

新選組100話


本書は1981年に発刊されたものを文庫化した1冊であり、すこし前の本となります。

著者の鈴木亨氏は、秋田書店時代から歴史に関する雑誌の編集長、のちに歴史研究家として活躍された作家です。

子母澤寛司馬遼太郎をはじめ新選組を題材とした歴史小説は沢山ありますが、本書はすこし変わったアプローチが取られています。

それはタイトルにある通り、新選組の歴史を100話に分割して、それぞれ特定の人物にスポットを当てて語られているという点です。

重複している人物が何人かいるものの、90名近い人物が登場します。

そして登場するメンバーも近藤や土方をはじめとした新選組の隊員だけでなく、倒幕側(薩長土肥)の志士や幕府の要人、さらには商人や隊員たちの家族など多彩な顔ぶれが登場します。

この本を読めば、新選組の中核メンバーの流派である天然理心流の創設期から、箱館戦争後も生き残った元新選組の隊員に至るまでを網羅することができます。

ただし本書は小説ではなく歴史考証であり、著者は几帳面な性格らしく、それぞれの考証には「史料メモ」という形で参考にした史料や異説なども紹介されています。

とにかく編集者出身だけに丁寧に作られている印象を受け、私の中でも新選組に関わる人物の整理や、さらには歴史小説などでは余り触れらなかった人物についても改めて認識させてくれる良い機会となりました。

ただし本書を読む前提として新選組を題材とした歴史小説を1冊は読み、全体像を頭に入れた上で読んだほうが楽しめることは間違いありません。

そもそも中公文庫ということもあり、新選組ファンや歴史好きの読者をターゲットにした本だと思われますが、前提となる基本的な知識さえあれば本書の内容は決して難解なものでなく、むしろ簡潔かつ丁寧な解説書として優れている1冊です。