地球光
やや歴史小説に偏っているものの、なるべく広いジャンルの本を読みたいと思っており、今回紹介するSF小説も今後積極的に読んでゆきたいジャンルの1つです。
いきなり最近のSF小説を読むよりも、古典的な作品の持つ雰囲気が好きなこともあり、古本市などでハヤカワ文庫SF、創元SF文庫などを見ると少しずつ買い溜めるようにしています。
さほどSFに詳しくない私でも本作品の著者であり20世紀を代表するSD作家であるアーサー・C・クラークの名前は知っているほどです。
彼はSF作家であると同時に、特に宇宙に関する科学技術の解説者としても知られており、最先端の科学知識を小説作品へ取り込むことによって、SF小説というジャンルを確立した功労者の1人です。
また「2001年宇宙の旅」の原作者として知っている人も多いと思います。
舞台は2300年頃と思われ、人類が宇宙へ進出してからかなりの年月が経過し、太陽系のおもな惑星に住んでいる人たちが大勢いるという設定です。
一方で地球政府と各惑星へ移住した人たちの惑星連合との間に資源配分などを巡って対立が続き、一触即発の危機を迎えているという状態です。
ストーリーそのものは地球政府の管轄下にある"月"を舞台に進みます。
主人公は地球政府が惑星連合のスパイあぶり出しのために送り込んだ秘密情報部員・サドラーであり、彼は会計士という肩書でスパイがいるとされている月に設置された天文台へ派遣されるところから物語が始まります。
正直に言えば、前半は月での人びとの暮らし方、移動手段や娯楽手段、さらには登場人物の紹介などの描写が続き、物語の起伏自体は少ないため、若干退屈と思いながら読み進めていました。
ただ注目すべきは本作品が発表されたのは1955年であり、人類初の月面着陸よりも約15年も早いという点です。
月の重力が地球の6分の1であることなど当時の科学的知見を作品中に反映しつつも、月には若干の大気と植物が存在するという著者の予測に基づいた描写は後世になって否定される部分でもあります。
物語は地球政府と惑星連合が軍事衝突を起こし、その戦場の近くである天文台に緊張感が走るところから一気に動き出します。
宇宙を舞台にした戦争で使用される兵器の描写などは斬新であり、この作品のクライマックスといえます。
スパイ小説としては不完全な部分がありますが、SF小説として捉えるとスパイの正体が誰なのかという点ははそれほど大きな問題ではないかも知れません。
月面を舞台にして展開するストーリーは期待通り独特の雰囲気があり、全体としては楽しく読むことができました。