レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

成瀬は信じた道をいく


2024年本屋大賞をはじめベストセラーとなった「成瀬は天下を取りにいく」の続編です。

前作でわが道をゆく主人公・成瀬あかりの魅力に引き込まれ、作品のファンになった読者も大勢いると思いますが、続編も期待を裏切らない出来になっています。

前作では成瀬の中・高校生時代が描かれていましたが、本作品では大学受験、そして大学1年生時代のストーリーになっています。

主人公の持つ魅力については前作のレビューで紹介したので割愛しますが、本作品の持つ別の魅力を紹介してみたいと思います。

それはストーリーの中心となる舞台が、著者の在住している滋賀県大津市であるという点です。

滋賀県でありながら京都からもほど近い地方都市である大津市は、大都会でも田舎でもない適度に発展した地方都市です。

私自身も地方都市で育ったため、その魅力のようなものは想像がつきます。

地方都市では生活を送る上で必要はモノは不自由なく手に入れることができます。
一方で東京の最先端のカルチャーといったものには縁遠いものの、地方独自の文化がきちんと残っていることが多く、ある程度の賑わいと独特の雰囲気が存在しているという点です。

主人公の成瀬は入学した京都大学へは自宅から通学しつつも、アルバイトは大津市に実在する商業施設「オーミー大津テラス」に入っているスーパーでアルバイトをしています。

実在している商業施設でアルバイトをしているという設定は、物語の舞台を鮮明に思い描くことができるため、主人公をより身近に感じることができます。

著者は生まれと育ちは静岡県ですが、現在は大津市在住とのことで、作品中から今住んでいる街への愛着がよく感じられます。

そして主人公である成瀬は、この大津市で生まれ育ったという設定であり、地元への強い愛着を持っています。

さらに大学生になるのとほぼ同じタイミングで応募した「びわ湖大津観光大使」に選ばれます。

名前から想像できるように大津市の顔として観光宣伝のPRを担うボランティアですが、これも実在する役職です。

つまり本作品は、現在進行形の大津市を中心に繰り広げられるパラレルワールドの物語ということがいえます。

幼少の頃より周りに流されず、タイトルにある通り信じた道を歩き続ける主人公ですが、年齢とともに社会との関わり合いが増えてくるにつれ"自分らしさ"を貫き通す生き方は難しくなってゆくはずです。

それでも数少ない周りの友人たちは成瀬に魅せられつつも暖かく見守り応援している点では、心温るストーリーであるともいえます。

本シリーズは実際の時間の流れと同じ速さで物語が展開してゆくことが予想され、今から3~4年後にやってくる主人公成瀬の就職活動、さらに社会人で活躍するストーリーに期待して気長に待ちたいと思います。