北越雪譜
「北越雪譜」は、江戸後期に越後塩沢(旧:塩沢町、現:南魚沼市)に住む商人であり文筆家でもあった鈴木牧之(1770~1842)が執筆した書籍です。
さほど雪の積もらない江戸の人びとたちへ挿絵も交えて雪深い越後の生活や文化、民話を紹介している書籍で、当時のベストセラーとなりました。
当時の雪国での暮らしを伝える歴史的にも貴重な資料であり、歴史小説に限らず多くの書籍で引用されることも多く、さらに私自身も作者の出身地からそう遠くない場所で生まれ育ったこともあり、本書の存在は以前から知っていました。
岩波文庫から版されている同書は学術的な価値を損なわないように原本の内容を忠実に再現していますが、今回紹介するのは教育社から原本現代訳シリーズとして出版されているものです。
すこし前に古本市で購入し自宅で積まれたままになっていましたが、冬の寒い時期に読む本として相応しいと思い今回手にとってみました。
牧之はしばしば雪を風流だと言う人は、雪のあまり降らない地域に住んでいるからだとし、塩沢のように数メートルの雪が積もる地域に住む人にとっては四苦八苦する厄介な存在であることを繰り返し述べています。
具体的に雪かき(本書では雪掘)の大変さ、交通の難儀さ、時には人の生命を奪う吹雪や雪崩の恐ろしさと共に、そこで生活する人びとの知恵も同時に紹介しています。
ただしすべての面で雪が厄介な存在かといえばそうでもなく、雪上でさらすことで生まれる名産・越後縮(えちごちぢみ)の製造過程についても細かく紹介されています。
現在は小千谷縮(おじやちぢみ)が有名ですが、当時は堀之内、浦佐、小出、塩沢、六日町、十日町、高柳など周辺の地域でも盛んに作られ、縮の種類も地域ごとで違っていたようです。
紹介されている民話については怪奇な内容のものも多く、囲炉裏端で老人から聞く昔話そのものという雰囲気があります。
本書で紹介されている文化や生活の一部は、200年もの時を超えて未だに地元に根付いているものも多く、本書が貴重な史料と言われる所以がよく分かります。
ちなみに本書はの序盤では作者である牧之の生い立ちや「北越雪譜」が出版されるまでの経緯が細かく紹介されており、執筆に至るまでの背景を知ることができます。
さらに本編においても原本を省略したり、要約や入れ替えなどをせずに忠実に現代語訳されているようであり、どことなく原文の雰囲気が伝わってくる点は好感が持てます。
おそらく絶版になっている本ですが、今でも入手するのはそう難しくないため、興味のある方は是非手にとってみて損はない1冊です。