軍師の門 上
戦国時代の醍醐味といえば、両陣営の軍勢が真っ向からぶつかり合う合戦であり、そこで活躍する猛将たちにスポットが当たりがちですが、個人的には謀略をもって戦いを有利に進めるべく戦場の片隅で活躍する知将、つまり軍師たちの活躍に一番心惹かれるものがあります、
本作品の主人公は秀吉麾下で両兵衛(りょうべえ)と言われ、張良・陳平にも例えられた竹中半兵衛、黒田官兵衛の2人です。
若干21歳の竹中半兵衛が歴史の表舞台に出てきたきっかけは劇的なものでした。
それは難攻不落といわれた稲葉山城をわずか十数名の手勢だけで乗っ取り、主人である斎藤龍興(道三の孫)を追い出したというものです。
それを知った信長は美濃半国と引き換えに稲葉山城の引き渡しを求めますが、それをあっさりと断り、半年後にはこれもあっさりと稲葉山城を龍興へ返しています。
それを聞きつけた若き日の官兵衛は、はるばる播磨から半兵衛を訪ねに来るというのが物語の序盤です。
この2人が秀吉に仕える以前に出会ったという記録はありませんが、武力ではなく知力によって戦国時代に名を馳せようという野望を持つ2人が運命的な出会いを果たすという演出には、軍師好きの私としては引き込まれてしまう場面です。
半兵衛は官兵衛より2歳ほど年長ですが、秀吉へ仕えたタイミングは10年近く半兵衛の方が早いようです。
よって官兵衛が秀吉に仕え始めた時点で、半兵衛は軍師として確固たる地位を築いていました。
一方でその頃には半兵衛は体調を崩し始め、それと前後して官兵衛は信長から離反した荒木村重の説得に失敗し、有岡城に約1年間幽閉されてしまいます。
その後、半兵衛は36歳という若さで病気により早逝してしまうため、この2人が揃って秀吉麾下にいた期間はわずか1年間ということになります。
それでも官兵衛が村重に加担したと思い込んだ信長により嫡男・松寿丸(後の長政)の殺害を命じた際には、半兵衛は危険を犯して松寿丸を自らの領地で匿います。
短い時間ではあるものの、官兵衛にとって半兵衛はその背中を追いかける存在であると同時に、友であり恩人でもあるという強い絆があったのです。
本作品ではこの2人の活躍を余すことなく描かれており、「THE・戦国時代小説」という印象を受けます。
上下巻で約900ページもある分量でありながら、戦国ファンであればページをめくる手が止まらなくなり一気に読んでしまいたくなるような作品です。