レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

死は存在しない



著者の田坂広志氏は、原子力工学を専門をする研究者であり、現在は企業経営、大学教授、私塾の運営など多岐にわたって活躍しており、作家としても多くの著書を発表しています。

人間は、寿命や病気などにより、いつか「」を直視しなければならない時期が来ます。

しかし日本人の大多数は、自分が死を迎えた後にどうなるのかという疑問を抱いているはずです。

深い信仰心のある方ならば、その教義に従ってたとえば極楽、または地獄へと行くことになると信じている人もいるはずです。

ただし中には信仰心を持ちながらも、極楽では美しい音楽が流れ、池には蓮の花が咲いている快適な場所、あるいは地獄には閻魔大王と鬼たちがいて血の池や針の山があるという昔ながらのアナログ的な説明に納得できない人もいるのではないでしょうか。

一方で科学では肉体が滅べば、そこで自分という意識も消えてすべてが「」になるという説が有力ですが、これはこれで無味乾燥だと感じてしまいます。

本書では最先端の量子科学の研究成果である「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」という観点から、死後の世界がどのようなものであり、そこで私たちの意識がそのように変わっていくのかについて説明したものです。

私には量子科学を正確に説明することはできませんが、簡単に言えば原子やそれを形作る電子、陽子、中性子、さらに小さなニュートリノといったミクロな世界を研究する学問で、それによって宇宙の起源を解き明かすことを目的としているようです。

宇宙がどのように誕生し、形作られたのが分かれば、地球をはじめとしたあらゆる惑星、そしてそこに生息する生物の謎にも迫ることができ、本書のテーマである生物の「死」についても考察できるということになります。

また本書のもう1つのテーマが、最先端の量子科学が提示している仮説を用いて、宗教的な神秘の解明を試みているという点です。

一例として「以心伝心」、「予感」、「予知」といった現象が該当しますが、著者は宗教的な神秘を科学の力によって種明かして、それまで科学が「偶然」、「妄想」、「錯覚」と断じていたものを再評価し、理性的な視点から両者の間に「橋を架ける」ことを目的としています。

具体的にどういった仮説が紹介されているかは本書を読んでのお楽しみですが、手軽に読める新書という形式で最新科学の一端を知るとともに「死」へ対して新たな視点をもたらしてくれるという点では是非読んでおいて損はない1冊だといえます。