子どもの隣り
灰谷健次郎氏の短編集です。
約200ページの文庫本に4作品がコンパクトに収まっています。
それぞれの作品を簡単に紹介してみたいと思います。
燕の駅
心臓の病気により長い間入院生活を続けている少女・千佳が主人公のストーリー。彼女は今まで3回の手術を受けてきましたが、医師から必要と言われている4回目の手術を拒んでいます。
それは隣の病室で闘病を続けきた顔見知りの患者が亡くなり、また医師たちが(自分を含めた)患者をまるで実験動物のように見ていると思い込み、生きる希望を無くしているからでした。
そこへ新しく中年の立木さんという患者が隣室へ入院し、彼との交流を通じて少女の心に少しずつ変化が訪れてゆくというストーリーです。
長い闘病と反抗期が重なるという複雑な主人公の心境がよく描けている作品だと思います。
日曜日の反逆
勤務先から車で帰宅中の男は、毎週日曜日に国道を1人で歩く少年を見かける。そして何度か少年を送り届ける車中で、2人の間には奇妙な絆が生まれてくる。
男は過去に少年と同じ年頃の1人息子が自殺するという悲運を経験しており、少年が抱えている問題に力を貸してあげたいと思い始める。
自身を孤独だと感じている少年の心境を直接描くのではなく、男の視点を通じて描かれいる作品です。
友
中学生である主人公・美那子の視点を通じて両親への反抗、生徒と先生の対立を描く。また最初は反発していたが、自分とは違いはっきりとした意見を持ちクラスを引っ張る同級生の伊丹君を意識するようになる。
ど真ん中の思春期の子どもを描いており、多かれ少なかれ誰もが自分の過去を重ねて読んでしまうな作品です。
子どもの隣り
4歳の少年が主人公の作品。毎日のように目的もなく駅に集まる老人たち、また偶然に出会った視覚障害を持った少女、家出をして彼と同棲している少女たちと知り合い、幼い視点から大人と少年少女の世界を描いている。
4作品の中では1番長く、子どもを取り巻く社会の問題を風刺している側面もある作品。
本書を読んで改めて思うのは、灰谷氏の描く子どもの心理描写が精密かつリアリティに溢れている点です。
大人(親)の視点から見ると、子どものやること/考えていることが分からない場面によく出くわしますが、よく考えれば誰もがかつては子どもであった経験を持ち、彼らの気持ちに寄り添うための記憶が奥底に眠っているはずなのです。
そうした記憶を掘り起こしてくれるような魅力が本書には詰まっているのです。
