レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

CAN'T HURT ME


タイトルの"CAN'T HURT ME"を直訳すれば、"私を傷つけることは出来ない"ということになります。

著者のデイビッド・ゴギンズには次のような紹介文があります。
退役海軍特殊部隊(ネイビーシール)。米軍でシール訓練、陸軍レンジャースクール、空軍戦術航空管制官訓練を完了した、たった一人の人物である。
これまでに60以上のウルトラマラソン、トライアスロン、ウルトラトライアスロンを完走し、何度もコース記録を塗り替え、トップ5の常連となっている。
17時間で4,030回の懸垂を行い、ギネス世界記録を更新した。

やたら情報量が多いですが、尋常な経歴でないことは分かります。

たえとばネイビーシールの訓練が過酷で、その任務が命の危険と隣合わせにあることは私も知っていますが、ほかの経歴も合わせて考えると、とんでもなくマッチョでタフなアメリカ人です。

デイビッド氏はこうした経歴を才能ではなく、努力によって成し遂げたと述べており、本書は自伝であると同時にその考え方や取り組み方を同時に伝えてくれます。

昨年から定期的に読んでいるビジネス書が似たような内容であると感じ始めたこともあり、すこし毛色の違ったものを読んでみようと本書を手にとってみました。

そしてその期待は見事に的中し、著者は「タイパだのコスパだの、手抜きや効率なんてクソ食らえ」という考えで、自身を限界までハードに追い込み、周りからクソヤバいやつだと思われるくらい努力を続けることが重要だと主張しています。

なぜなら人間は本当の力の40%しか出していないはずであり、限界を超えた努力を続けることでその上限を突き破って不可能に思えることを次々とやり遂げ、自分を変えることが可能になるということです。

著者は暴力と貧困に怯える少年時代を過ごし、黒人であることから多くの差別を体験してきました。

これを現代風にいえば"人生ガチャに外れた"という表現になりますが、著者はそれを"甘え"であると一蹴し、すべては自分次第、つまり自分の人生は自分で何とかするしかないと主張しています。

とはいえ著者は最初から「鎧の心」を身に付けていたわけではなく、何度も挫折、失敗を繰り返しながら、試行錯誤の末に辿り着いた答えであり、本書にはその過程が細かく書かれています。

これをビジネスに応用するならば、昨今話題になっている働き方や生活スタイルを見直すワークライフバランスとはまったく真逆の考え方で、自分の心に打ち勝つには「とりつかれたかのような努力」、「とりつかれたかのようなハードワーク」が絶対に欠かせない要素であり、睡眠時間を3時間に削ってでも働き続ける姿勢が必要だということになります。

つまり昭和サラリーマンの「24時間戦えますか」のような世界観であり、TVで本書に書かれているような発言をすると大問題になりかねない時代ですが、本書は全米で500万部を記録した凄まじいベストセラー作品であり、日本以上に生産性や効率性にうるさく、AIの分野で世界を牽引するアメリカでこうした作品に多くの共感が寄せられていることを考えると、その懐の深さを改めて実感します。

ただし本書は単なる過激で直球な言葉の並ぶ自己啓発本ではなく、全体を通して著者が読者を叱咤激励してくれるような体温を感じることも事実です。

ありふれた世間並みの成功ではなく、周りから不可能だと言われるような目標へ向かって挑戦を続ける人にとって著者の言葉は勇気づけられるものであり、自分を変えたいと思っている人にとってもヒントを与えてくれる1冊です。