後白河院
井上靖氏による歴史小説です。
タイトルかわ分かる通り本書は後白河院が主人公ですが、この時代はいわゆる平家物語(源平合戦)と一致しており、分かりやすい活躍をした清盛や頼朝、義経といった武家側からの視点ではなく、あえて朝廷側の視点から作品を描いている点が特徴です。
また本作品はすべて三人称によって書かれており、後白河院を主人公としながらも彼の視点や心情が直接的に描かれることはありません。
全4部から構成されており、いずれも公卿である男女が過去を振り返っての語り、もしくは自らが記した当時の日記を振り返るという形で物語が展開してゆきます。
- 第1部:平信範
- 第2部:建春門院中納言
- 第3部:吉田経房
- 第4部:九条兼定
日本史の教科書でいえば、この時代は天皇の中央集権時代が終わりを告げて「武士の台頭」というタイトルで解説される箇所です。
武士の台頭といっても彼らの力の源泉は"武力"であり、その武力が衰えれば簡単に誰かによって取って代わられる運命にあります。
一方で天皇を頂点とした公卿たちの力の源泉は"権威"であり、それは「従三位」といった位階や「左大臣」や「大納言」といった官職によって表されます。
しかもこの権威は家柄に応じて、(努力なしで)自動的に子孫たちへ代々受け継がれ、容易に失われるものではありません。
つまり後白河院をはじめ公卿たちの目線からこの時代を見てゆくと、次々と新たな武士たちが生き急ぐかのように現れては消えてゆくを繰り返していくように映るのです。
その中で後白河院は30年以上にわたる院政を通じて武士たちの栄枯盛衰を誰よりも間近で見てきた人物であり、彼を中心に歴史を描くことで歴史の持つ無常さをうまく表現した作品であるといえます。
文体や作品中に登場する単語を含めて、かなり硬派な部類に入る歴史小説だと思います。
そのため慣れないうちはスラスラと読む進めることが難しいと思いますが、文庫本で約170ページというそれほど多くない分量ということもあり、腰を据えてゆっくりと読んでみてはいかがでしょう?
