レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

成瀬は都を駆け抜ける


本書は、宮島未奈氏によるベストセラーシリーズ第1弾「成瀬は天下を取りにいく」、第2弾「成瀬は信じた道をいく」に続く第3弾となります。

個人的にまだまだ続いていくシリーズだと勝手に思い込んでいましたが、残念なことに著者によると本作で完結となるようです。

本書では前作に引き続き京都大学へ入学し、同校の1回生となった主人公・成瀬あかりを描いています。

本シリーズの魅力は前作までのレビューでも紹介しましたが、簡単に言えば主人公の人間的な魅力、そして作者が在住している地方都市・滋賀県大津市の魅力が融合している点です。

つねにに主人公の言動が三人称で書かれているのは1作目から共通しており、成瀬あかりの友人、知人、ときには親の視点から書かています。

一見すると他人の視点から見た彼女の言動は理解しがたい点が多々ありますが、主人公との会話やさまざまな経験を通じてその意図を知り、実際の行動力を見るにつれその魅力に惹かれてゆくのです。

主人公と同じ京都大学に合格してものの、失恋を経験し生きる意味を失いつつあった坪井さくら、達磨研究会という風変わりなサークルに入ることなった梅谷誠とそのメンバーたち、簿記試験に挑戦する様子を配信しているYoutuberのぼきののかなど、偶然成瀬と出会ったことにより影響を受けてゆく登場人物たちが本作には新たに登場します。

さらに後半になると地元ローカル局の番組に娘と一緒に出演することになった母親の美貴子、前作に引き続き登場する主人公へ密かに恋している奥手の西浦航一郎、さらに1作品目から登場している成瀬の幼馴染で一番の友人である島崎みゆきなど、シリーズ大団円に向けて今まで成瀬と知り合い影響を受けてきた人物たちが総動員という形で登場します。

成瀬自身には人間関係で不器用なところがあり、その場の空気や他人の気持ちを察することが苦手で、自分のやりたい事だけを真っ直ぐに追いかけるという側面があり、そこに彼女の魅力が内包されていました。

基本的に3作品目でも成瀬のスタイルは変わっていませんが、さまざまな人間と関わりを持つ中で、彼女の中にも他人の気持ちを理解しようとする成長が見て取れるようになります。

もちろん他人の気持ちを理解する能力は社会に出る上で必要であり、これは間違いなく成瀬にとって成長であり嬉しいと思う反面、個人的にはそれを突き抜けてこそ光っていた彼女の魅力が薄まってしまうような少し残念な気持ちもありました。

だからこそ誰よりも主人公と向き合い続けてきた作者が、この作品を完結編とした気持ちも理解できるような気もします。

結果として1作目の勢いを失うことなく、3作品目まで駆け抜けたシリーズであり、著者のこれからの新しい作品を楽しみに待ちたいと思います。