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火怨 下 北の燿星アテルイ

火怨 下 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

上巻に引き続き、平安時代のアテルイ率いる蝦夷軍と朝廷軍の戦いをテーマにした作品「火怨」のレビューです。

下巻に入り、何度となく朝廷軍に勝利した蝦夷たちの前に最強の敵が登場します。

桓武天皇から征夷大将軍に任命された"坂上田村麻呂"。


これまでの朝廷軍を率いてきたのは、圧倒的な軍勢で力任せに攻めることしか知らない将軍たちでしたが、田村麻呂は敵の10倍もの軍勢を率いながらも蝦夷たちの強さを熟知しているため、密偵を使いながら慎重に軍を進め、決して安易な決戦を挑もうとしない隙の無い将軍です。

そうした田村麻呂の作戦に蝦夷軍は少しづつ消耗を続けてゆきます。

アテルイは20年間に渡り何度となく押し寄せる朝廷軍を退けてきましたが、次第に戦い続けることに疑問を抱き始めます。

ついには蝦夷の住む陸奥へ平和をもたらすために自らの命を犠牲にした捨て身の作戦で田村麻呂との戦いに挑み、そして物語は佳境を迎えてゆきます。

小説の舞台である岩手県出身の著者の頭に隅々まで入っている地名や地形、そこでどのような戦いをアテルイたちが繰り広げたのかという想像力が組み合わさり、平安時代の陸奥(東北)を舞台にした作品とは思えないほどの臨場感を与えてくれます。

天皇という権力の象徴ともいうべき威光が日本を照らす前の時代に、広大な陸奥という大地で光り輝いたアテルイの活躍は神々しささえ感じました。

引き続き陸奥三部作の続きが楽しみです。