天を衝く(1)
陸奥(みちのく)三部作の最後は、戦国時代に活躍した"九戸政実(くのへまさざね)"が主人公です。
戦国時代の東北地方では様々な大名が乱立し、豊臣秀吉によって平定されるまで群雄割拠の時代が続きました。
東北地方の大名といえば伊達氏、最上氏あたりが有名ですが、陸奥北部から津軽地方にかけては南部氏が有力な大名でした。
南部氏は「炎立つ」の3巻で描かれた"後三年の役"で"源義家"と共に活躍した弟の"新羅三郎義光( しんらさぶろうよしみつ)"を祖先としており、他の戦国大名では武田氏や佐竹氏などが同じ義光の子孫にあたります。
織田信長とほぼ同世代の"政実"ですが、大名ではなく南部氏の一族として生まれます。
当時の南部氏では本家が盟主とされながらも、一族の合議制が重んじられ、強力なリーダーが不在の状態が続きます。
その中でも政実率いる一族は"九戸党"と呼ばれ、政実の優れた武力と知力により一族の中で、もっとも武力に優れた軍団を率いていました。
副題には"秀吉に喧嘩を売った男 九戸政実"とあり、のちに陸奥の地にあって天下を敵に回すことになります。
前作までの陸奥を統治する強力なリーダーが主人公として描かれてきた作品と比べるとスケールは小さく感じますが、その分ストーリーの密度は濃厚であり、"九戸政実"という男を中心にした戦国時代を充分に堪能できる歴史小説になっています。