炎立つ 壱 北の埋み火
陸奥(みちのく)三部作の2作品目「炎立つ」。
全5巻ということで、シリーズ中もっとも分量があります。
舞台は前作のアルテイと坂上田村麻呂の戦いから約200年後。
かつての蝦夷人たち土地(陸奥)は朝廷の支配下に置かれ、名目上は中央から陸奥守として任命された公卿の"藤原登任(ふじわらのなりとう)"の統治下にありました。
しかし実質的には、蝦夷人の血を受け継ぐ"安倍頼良(あべのよりよし)"が物部氏の末裔で陸奥の金山を支配する"吉次(きちじ)"と手を結び陸奥六郡を実質的に運営している状態でした。
頼良の経済力、軍事力はいずれも陸奥守の力を遥かに凌駕するものでしたが、その実力に嫉妬して朝廷での栄達を野望に抱く登任によって、再び陸奥は戦乱に巻き込まれてゆきます。
当時の朝廷では天皇を中心とした貴族(公卿)たちの力が少しずつ弱まりつつあり、地方の荘園の経営を任された豪族たちが力を蓄え始め、武士集団を形成してゆく過程にありました。
この作品の舞台の100年前には平将門による大規模な反乱がありましたが、朝廷たちは武士の台頭を恐れつつも、将門の反乱を鎮圧すためにも武士たちの力に頼らざるを得ない状況にありました。
登任も平氏で最も実力を持っていた"平繁成(たいらのしげなり)"の力を借りて、安倍氏の討伐を試みます。
頼良と、その息子の貞任、宗任兄弟たち。
10万もの朝廷軍を相手に一歩も引かなかったアテルイの精神を受け継いだ蝦夷人たちが、再び自らの土地を守るために立ち上がります。
それは後に"前九年の役"と呼ばれる奥州藤原氏の開祖である安倍氏の長い戦いの始まりでもありました。
前作「火怨」と比べると登場人物の多さに始めは戸惑うかもしれませんが、ベストセラーとなった歴史小説だけに、それぞれが個性的であり、1巻を読み終える頃には魅了されてしまうこと間違いなしの作品です。