レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

火怨 上 北の燿星アテルイ

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

岩手県出身の作家、高橋克彦氏が描く東北の視点から描いた歴史小説。

そんな著者の手がけた 「火怨」 「炎立つ」 「天を衝く」陸奥(みちのく)三部作ともいわれ、著者の代表的なシリーズです。

本書「火怨」の舞台は、奈良時代~平安時代にかけての陸奥です。

当時は天皇を中心とした強力な中央集権が確立しつつある一方、東北地方(陸奥)に昔から住む蝦夷(えみし)と呼ばれる人たちは天皇の支配を拒否し、頑強な抵抗を続けていました。

本書の主人公である亜弖流為(アテルイ)は、そうした蝦夷の軍を束ねる指導者として登場します。

過去の記録は常に強者の立場から書かれているため、後世からは虐げられた敗者の姿はなかなか見えてきません。

とくに東北といった常に時代の権力から離れた地域は、近世の明治時代においても明らかな差別を受けてきた過去があり、そうした視点から歴史を学ぶことを忘れがちになります。

実際には東北が日本の歴史において注目された時代が何度かあり、その最初の舞台が本作品であるともいえます。

著者の描く1200年以上前の日本で天皇を中心とした強力な律令国家を相手に一歩も引かずに戦った蝦夷たちの壮大な物語は、戦国時代さながらのスケール感です。

アテルイの他にも天才軍師として登場する母礼(モレ)、蝦夷最強の戦士として登場する飛良手(ヒラテ)など、魅力的な人物たちが次々と登場し、20年以上にわたり何度となく押し寄せる朝廷の大軍を撃退してゆきます。

しかし物量で圧倒的に勝る朝廷軍に対し、物資の限られた蝦夷連合は勝利を重ねても疲弊してゆきます。

そこでアテルイたちはどういう決断をくだすのか?
後半も目が離せません。