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炎立つ 参 空への炎

炎立つ 参 空への炎 (講談社文庫)

蝦夷の未来を賭けた"安部貞任"、"藤原経清"の戦いも3巻に入り最後の決戦が迫ってきます。

阿部氏は"黄海の戦い"で源頼義、義家の軍勢に大打撃を与えたものの源氏の執念は凄まじく、阿部氏と同盟関係にあった出羽の清原氏の力を借りて、再び戦いの火蓋が切って落とされます。

大義名分を作り出すために手段を選ばない執拗な源氏の姿が描かれていますが、もしこの陸奥争奪戦に源氏が負けていたら、後の頼朝による鎌倉幕府や足利氏による室町幕府の成立も無かったと断言できるほどに重要な局面でした。

後の歴史から見れば源氏の代表的な武勇伝となった戦いですが、蝦夷側から見れば侵略者から自らの土地を守るための戦いであり、特に前九年の役における最後の戦場となった"厨川柵(くりやがわのさく)"での場面は、大阪夏の陣を彷彿とさせる悲壮感があります。

多大な犠牲を払って勝者となった源氏にとっても結末は決して明るいものではありませんでした。

源頼義は武士の台頭を恐れる朝廷により伊予守へと事実上の左遷を受け、陸奥の支配は清原氏に任されることになります。


束の間の平穏が訪れた陸奥。
それは表面上のものであり、早くも新たな戦乱の足音が聞こえてきます。


陸奥の覇権を賭けた壮大なスケールの決戦、そこで戦う人間たちの興亡を堪能できる贅沢な作品です。