レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust

マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・スクランブルもいよいよ最終巻のレビューとなります。

主人公バロットたちの目の前に立ちはだかる宿敵シェルには、失われた過去が存在します。

それは少年期の家庭環境のトラウマ、そして数々の残忍な自らの行為であり、それらが余りにも壮絶であるために、自らの精神を正常に保つために意図的に外部のメモリへ退避したためです。

人間の記憶さえもデジタル化でき、主人公をはじめとした登場人物たちはテクノロジーの発展により人体を修復・強化する目的で様々な人体改造を行なっています。

更には高度なネットワーク網の発達により、あらゆる情報へ直接アクセスすることが可能になっています。

これらはサイバーパンク小説に共通する設定ですが、現代ではインターネットの発達によりサイバーパンクの世界がそれほど現実離れしていない時代が到来してきました。

一方でテクノロジーが如何に高度な発展を遂げようとも、人間の精神が共に成長するとは限りません。

作品の登場人物たちは過去に心の傷を抱え、これから生きてゆくため自らの存在価値を模索しているという点で共通しており、全編を通じて登場人物たちの内面を深く描写しているのが本作品の特徴になっています。

そして互いの存在が自らの存在価値を否定する場合、争いを避けることは出来ないというのも事実です。

当然のように殺伐とした場面も多く登場しますが、最終的に魂を救うのはテクノロジーではなく、信頼関係で結ばれた絆であることが、もっとも大きなテーマであるといえます。