マルドゥック・スクランブル The 2nd Combustion
引き続き「マルドゥック・スクランブル」のレビューです。
本作品は3冊から構成されており、本書は中編にあたります。
物語の構図は非常に単純であり、作品の早い段階で敵味方の陣営がはっきりとしています。
つまりストーリーの大枠は極めて単純ですが、その分繰り広げられる対決の内容は複雑であるといえます。
主人公の少女ルーン=バロット、相棒のウフコック、そして2人をサポートするドクター・イースター。敵役として裏社会でトップに上り詰めようとするシェル、そして片腕のボイルド。
バロットはシェルに殺されかけた過去を持っており、ウフコックとボイルドは過去に相棒だった時代があります。
ウフコックはネズミに人間並みの知能をもたせた生物であり、あらゆる道具に変化できる能力を持っています。ボイルドは人間の元兵士であり、人体改造により重力を自在に操る能力を手に入れています。
バロット&ウフコックとボイルドの戦闘シーンは、「マトリックス」+「ターミネーター」のような戦闘シーンが繰り広げられます。
かと思うと物語の展開は一変してカジノが舞台になります。
そこでは肉体的・物理的な激しい戦闘シーンとは対照的に緻密な戦略、そして心理戦が展開されゆきます。
この2つの場面のギャップには物語全体のバランスを重視する読者にとてっては、戸惑いを感じてしまうかもしれません。
ただし当時の新鋭作家としての冲方氏が、執筆したい場面を本作品中にすべて表現した潔さを感じます。それだけに各シーンの迫力は読者を巻き込んでしまう魅力を持っていることは保証します。