ルール
太平洋戦争末期のルソン島を舞台にした戦争小説です。
その中で、ひたすら退却を続ける1つの小隊が物語の中心となります。
この小隊は主人公の鳴神中尉、そして姫山軍曹といった指揮官に率いらていますが、銃弾は尽きかけ、わずかな薬や食料を持っているにすぎない部隊であり、およそ軍隊といえるものではありませんでした。
やがてフィリピンの熱帯雨林の中で敗走を続ける中で、小隊は散り散りになり、わずかに残っていた食料も尽きてしまいます。
もはや彼らにとって最大の敵は、アメリカ軍ではなく飢えとマラリアであり、体力が無くなった者から脱落してゆき、その先には"確実な死"が待っています。。。
ジャングルの昆虫や野草を口にするしかなく、それでも飢えから逃げられない時、人間としての"ルール"の一線を超えるかどうかの岐路に立たされることになります。
つまり本書の"ルール"とは、人肉のみが餓死から逃れられる唯一の手段という状況下で、それを口にするか否か、人間らしくあるための最後の良識を意味しています。
太平洋戦争では200万人以上といわれる軍人・兵士の犠牲者を出しましたが、その6割が飢餓や病気によるものだと推測されています。
充分な補給物資さえ無いにも関わらず、兵站を無視した戦線拡大によって失われた命の多くは、軍部の愚かな作戦の犠牲者であったと言わざるを得ません。
こうした悲惨な状態の中で飢餓や病魔に苦しみながら死んでいった兵士たちの苦しみは、現代に生きる私たちの想像を超えるところにあります。
著者の古処誠二氏は1970年生まれであり、戦争を体験していない世代の作家です。
フィクションでありながらも当事者の体験談や本をよく研究されていており、客観的な視点から冷静に描くことにより、リアリティのある内容に仕上がっています。
逆に太平洋戦争で実際に飢餓や病気を経験した当事者たちにとっては、あまりにも苦しく悲惨な過去だったゆえに、本書のような目線では決して当時の出来事を書くことはできないでしょう。
あと10~20年もすれば戦争を経験した世代が完全にいなくなりますが、人間に寿命がある以上、これは致し方ないことです。
しかしその後の世代に生きる日本人が、こうしたフィクション小説の形であっても当時の様子を伝えてゆくことには意義があると思えます。