永遠の0
放送作家、ノンフィクション作家として活躍した百田尚樹氏が2006年に発表した小説デビュー作品であり、累計170万部を突破した大ベストセラー作品です。
タイトル名にある"0(ゼロ)"とは、太平洋戦争における日本海軍の戦闘機・零戦(正式名:零式艦上戦闘機)です。
太平洋戦争開戦当初は、世界トップクラスの飛行能力を持った戦闘機として一躍有名になりましたが、その末期には特攻隊(正式名:神風特別攻撃隊)を象徴する"道具"としても広く知られています。
あえて"道具"と表現したのは、戦闘機は敵機を撃退してパイロットを無事に生還させることを前提に設計された乗り物ですが、特攻はパイロットの命を犠牲にして敵艦へ体当たりすることを目的とした、"十死零生(=生き残る可能性がない)"の作戦であり、それはもはや戦闘機とは呼べず、"人間搭載ミサイル"と表現するしかない兵器だからです。
ちなみに同じく太平洋戦争末期には、「桜花」「回天」といった正真正銘のミサイルに人を括りつけた特攻兵器も登場しました。
零戦に関してはノンフィクション、フィクション問わず様々な形で書籍化、または映像化された作品があります。
しかし特攻隊以外にも多くの兵士たちが戦場で壮絶な死を遂げていますが、なぜ特攻隊がクローズアップされることが多いのか?
もちろん先ほど挙げた生還を期待できない"十死零生"の使命を課せられた若い兵士たちが主な犠牲者だったという理由もあります。
更に理由を加えるとすれば、日本軍司令部の人命を軽視した愚劣な作戦と、祖国(もっと特定すれば自らの家族)を守るために迷いなく敵艦への体当たり作戦を敢行して散っていった命との対比が"悲劇"をいっそう際立てさせているともいえます。
本書の秀逸な部分は、フィクションでありながらも海軍(中でも特に戦闘機のパイロット)の視点を中心とした戦争の史実を巧みに織り込んでいる点です。
つまり戦争を知らない世代が小説として作品を楽しみつつも、教科書よりも詳細な戦争の経過を知ることができる優れた内容になっています。
これはノンフィクション作家として活躍した百田氏ならではの特徴が充分に生かされているといえます。
600ページ近くに及ぶ長編であり壮絶なストーリーが展開されますが、内容についてはここでは触れません。
今までも太平洋戦争や日中戦争をテーマにした本は何冊も読んでいますが、読めば読むほど、どんなに紙面を割いてもその悲しみや愚かさを語り尽くすことは出来ないことを実感します。
結論を言うと戦争を経験した人間にしか分からない世界になってしまうのですが、今の時代を担う人びとがその一端でも知ろうとする姿勢が、二度とこうした出来事を繰り返さないための唯一の方法なのかも知れません。