暗殺のアルゴリズム〈下〉
引き続きロバート・ラドラムの遺作「暗殺のアルゴリズム」をレビューしてゆきます。
スパイ小説の特徴といえば緊迫の潜入作戦、そして派手なアクションシーンが挙げられますが、もう1つ欠かせないものがミステリー要素です。
スパイ小説では秘密のベールに包まれた強大な組織が主人公に立ちはだかるといった構図が多く、さらに悪役のボスは姿を隠したがるものであり、はじめは手下や殺し屋を雇って主人公を葬り去ろうとするのです。
加えて本作では、敵の勢力へ敵対する勢力までが現れる始末で、主人公ベルクナップにとって第三の勢力が敵か味方であるのかも定かではありません。
その敵の正体も今回は少し変わっています。
普通であれば、敵国の政治的指導者、味方を裏切った諜報員、大規模な武器の密売を重ねる死の商人、巨大な麻薬組織など、ひと目で"悪"と分かるような組織が敵に回るものですが、今回はそのいずれでもありません。
少しネタバレしてしまいましたが、とにかくミステリー的な要素も充分に楽しめる作品に仕上がっています。
もちろん衝撃のラストも用意されており、今までのキーパーソンが一堂に会する場クライマックは見応え充分です。
なかなかの長編作品のためハリウッド映画のように手軽に楽しめるとまでは行きませんが、完成度の高いスリリングなスパイ小説であることは間違いありません。