ナチの亡霊(上)
シグマフォース・シリーズの1作目「マギの聖骨」に引き続き、2作目「ナチの亡霊」を続けて読みましたのでレビューします。
タイトルから分かる通り、今回は"ナチス"を題材にしています。
ナチス党首のアドルフ・ヒトラーは、歴史・科学へ強い興味を持っていましたが、その中にはいわゆる"オカルト的"なものも含まれていました。
さらにナチス親衛隊(SS)の隊長であり、ユダヤ人の大虐殺を主導したヒトラーの右腕ともいうべき存在ハインリヒ・ヒムラーに至っては、その傾向がより一層強かった人物だといわれています。
そのヒムラー指揮の元で行われていた大規模な秘密研究のテーマに量子論があり、ヒムラー亡き後も密かに続けられていた量子論研究の結果、現代に強力な兵器が生み出されるという設定で物語が始まります。
実際に20世紀初頭には、有名なアインシュタインに代表される相対性理論と双璧をなす最先端の科学理論であり、量子論はドイツの科学者が発表したものであり、研究の最先端国でもあったようです。
そして人類の重大な脅威となる兵器の開発と使用を阻止すべく、再びグレイソン・ピアース隊長が活躍します。
しかも今回はピアース隊長の上司であり、シグマの司令官でもあるペインター・クロウ長官も最前線で活躍します。
若くてピンチを瞬発力で切り抜けるピアース隊長と、豊かな経験と忍耐力でピンチを切り抜けるクロウ長官の対比は、ともすると単調になりがちな長編スパイ小説の場面描写にメリハリを与えてくれ、著者のジェームズ・ロリンズ氏の綿密な小説技法が感じられます。
また前作と同様に絶妙なブレンドで織り込まれた最新の科学技術と歴史的な事実は今回も健在です。
シリーズ2作目に突入しても読者を惹きつける魅力がある作品です。