レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ナチの亡霊(下)

ナチの亡霊(下) (竹書房文庫)

前回に引き続きジェームズ・ロリンズ氏の「ナチの亡霊」の下巻を紹介します。

前回紹介した通りナチス生き残りの科学者が戦後も量子論研究を続け、やがて現代の人類にとって脅威となるべき兵器を開発する。

本作ではその量子論を巧みに、ゲルマン的な民族主義(=アーリア人を優秀な民族とする考え)、そしてその延長線上にある超人思想(やがてアーリア人の子孫の中から新人類が誕生するという考え方)と結びつけてゆきます。

こうした民族主義的な思想に重要なのが「純血さ」や「遺伝」であり、それを再び最先端の遺伝子工学に結びつけるという著者の着眼点には脱帽させられます。

科学と歴史を融合する巧みなセンスに読者をどんどん惹きつけられてゆきます。

もちろんナチスが掲げた思想のオカルト的な部分や、量子論の考えを一般人がきちんと理解するのは到底無理ですが、ピアース隊長たちが謎を解き明かす場面に読者として立ち会うことで、その内容を分り易く伝えてくれます。

大人の教養」といってしまうと大袈裟ですが、読者の知的好奇心を満たしてくれるかのようなストーリー展開は従来のスパイ小説には少なかった要素であり、むしろ本シリーズの本質はスパイ小説ではなく、SFや歴史ミステリーであるといえます。

一方でハードボイルド度はかなり低めで、よりエンターテイメントを意識したシリーズに仕上がっているのではないでしょうか。